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「銀歯」はあぶない 先進国では日本だけ、5年で再発 

「週刊文春」編集部
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 歯科医院に長期間通い、虫歯を削って銀歯を入れた。やれやれこれでずっと安心、と思ってはいないか。実は銀歯には寿命がある。放っておけば隙間から虫歯菌が忍び込み、やがては……。ではどうすればいい? 銀歯は入れないほうがいいのか? 識者が徹底解説!

 自分の口の中には銀歯が1本もない、という人は少ないだろう。

「歯科疾患実態調査」(厚労省・2016年)によれば、「う歯(虫歯)を持つ者の割合」は、35~74歳の年代で95%を超えている。虫歯は歯科で治療しなければならないが、処置した歯のうち、クラウン(被せもの)をつけた歯は65~69歳と80~84歳の「4.7本」を筆頭に、50~84歳で4本を超えている。

 処置した歯の多くには銀歯が被せられる。銀歯は保険診療であり、安価(1本あたり約5000円)だからだ。

 だが、その銀歯には“寿命”があることをご存じだろうか。「虫歯を削った。銀歯をかぶせた。これでずっと安心」という考え方は、実はあぶないのである。

 東京都在住の40代男性A氏は、10年程前、治療した右上の一番奥の歯に銀歯を被せた。だがそれがある朝、突然外れてしまった。

銀歯がポロッと外れた経験のある人は多いはず
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「その日のうちに歯科医へ行きました。新しい銀歯を作り、被せ直せば済むと思っていたのですが、レントゲン撮影してみたら、神経まで虫歯になっていたんです。結局、根管治療(神経を抜く治療)をすることになりました。先生には『神経を抜いた歯は枯れ木のような状態だと思って下さい』と言われました……」

銀歯の下で虫歯が再発

 実は銀歯には、大きな2つのリスクがある。その1つが「虫歯の再発」である。

 多くの歯科医は「銀を詰めたり被せたりした場合、約5年で内部に虫歯が再発する」という共通認識を持っている。

 虫歯を削った上で、銀をかぶせても、その銀歯は日々劣化していく。口腔内には何百億もの細菌がいて、その環境の中で我々が熱いものや冷たいものを食べたり飲んだりし、銀歯に負担をかける結果だ。東京国際クリニック歯科の清水智幸院長が解説する。

清水氏

「銀という素材自体は硬いのですが、同時に、経年劣化によって割れたり欠けたりしやすい。それによって生じた隙間から細菌(虫歯菌)が侵入していくのです。そのまま放置していると歯の内部で感染はどんどん広がっていきます」

 加えて、銀歯と歯を接着するために使用する、セメントも経年劣化する。

「歯とセメントはくっつきますが、実はセメントと銀歯は本来くっつきません。濡れた2つのコップを重ねるとギュッとくっつきますが、セメントと銀歯はあの摩擦力のような『嵌合力(かんごうりよく)』でくっついているのです。だからセメントが劣化すると、その隙間に虫歯ができやすくなるし、銀歯が外れやすくなるのです」(同前)

 治療から時間が経った銀歯の場合、虫歯が相当進んでいることもある。コージ歯科(東京都葛飾区)の貝塚浩二院長が指摘する。

貝塚氏

「セメントの劣化などによって銀歯が外れた際に判明します。銀歯が外れる前に、下に虫歯があるかどうかを判断するのは非常に難しい。銀歯の中はレントゲンに映りにくいからです」

 まさに“フタを開けてみなければわからない”わけだが、その点、銀歯が外れるのはむしろラッキーともいえる。日本歯科大学附属病院の北村和夫教授が言う。

「銀歯が外れて、すぐに来院すれば治療ができるからです。しかし、自覚症状のないまま、銀歯の下で虫歯が進行すると、かなり状況は悪化します。

 また、神経を抜いてしまった歯は虫歯が再発しても痛みを感じにくいので、気づいた時には抜歯せざるを得ない、ということも多々あります」

金属アレルギーも

 銀歯が劣化していく過程で生じるもうひとつのリスクが「金属アレルギー」だ。

 本来、銀は金属アレルギーを起こしにくい物質といえる。だが、銀歯は純銀ではない。正しくは「金銀パラジウム合金」という名称で、銀が40%以上、パラジウムが20%以上、金が12%以上、残りはその他の金属からなる合金だ。

 貝塚院長が解説する。

「銀歯が劣化していく中で様々な金属が溶け出し、アレルギーが引き起こされる。特に、パラジウムが原因となることが多い。

 銀歯のアレルギーが厄介なのは、症状が口の中に出るわけではない、という点にあります。掌蹠膿疱症(しようせきのうほうしよう)といって手の平が赤くただれたり、全身に湿疹が出ることもあります。何年も経ってから異変が生じることも珍しくなく、その場合、皮膚科などを受診しても銀歯との関連に気づかれないケースもあります」

 口腔内の金属によるアレルギーが疑われたとしても、どの金属がアレルギーを引き起こしているのか、合金に含まれる全ての金属について、1つずつパッチテストで調べなければならないのである。

なぜ銀歯をかぶせる?

 日々患者の治療に励む歯科医師たちは、もちろんこうした銀歯にひそむリスクを理解している。それゆえ、歯科医の多くは、家族や友人の治療には銀歯を使わないという。

 実は、“銀歯偏重”は日本特有の現象だ。

「日本では保険が適用されるため、数千円の負担で手軽に銀歯を入れる方が圧倒的に多いですが、歯科先進国のスウェーデンなどでは、金属を入れることはまずありません。歯科治療に金属を使うことを法律で禁止している国もあります。

 皆保険制度がないアメリカでは、低所得者が銀歯を入れるケースがありますが、先進国の中で、一般的に銀歯を治療の最初の選択とするのは、実は日本人だけなんです」(清水院長)

 ではなぜ日本の歯科医は患者に銀歯を入れるのか。その背景を都内のベテラン歯科医が嘆息しつつ語る。

「『医師・歯科医師・薬剤師統計』(厚労省・2018年)によれば、歯科医師は10万人以上いる。『歯医者はコンビニより多い』とよく言われますが、歯科医は経営的に過当競争が続いている。加えて今は、コロナによる受診控えも起きている。

 そんな中、『保険は使えない自費診療で高くなりますが、銀歯より良いものがありますよ』とはなかなか言いにくい現実があります。歯科医は口コミに左右されるところが多いですから、『あそこは高額なものを売りつける歯医者だ』と悪評が立つのがいちばん怖いのです」

 

銀歯でなければ何がよい?

 では、歯科医たちが「実は銀歯よりベター」と考え、実際に身内の治療に薦めるのはどんなものなのか。

 まず「銀歯より有効」と口を揃えるのが、おなじみの「金歯」である。北村教授が解説する。

「金歯も純金ではなく合金で、タイプがⅠ~Ⅳと分かれており、数字が大きいほど硬くなります。いずれも金の含有量は70数~80数%。金の他に銀、銅、パラジウム、イリジウム等が含まれています。

 金歯は銀歯よりも金の含有量が6~7倍多く、逆に、パラジウムなどの他の金属の量は少ない。そのため金属アレルギーが出にくいとされます。また、金は薄く伸ばせるために歯との適合性に優れるなど、銀歯よりも多くの利点があります」

 ただし、“見た目”という弱点もある。

「口内に金歯があると、どうしてもギラギラと目立ってしまいます。審美性という点を考慮すると、特に前歯や、口を開けた時の下の歯は目立ちやすく、誰にでもお薦めできるものではありません」(同前)

 金属アレルギーを起こさず、銀歯のような劣化リスクも少ない素材として、セラミックもある。銀歯と違い、歯との接着性が非常に高いため、長く使っても虫歯再発の懸念が低い。多くの歯科医は、本音ではセラミックを推奨したいという。

セラミックの被せもの

 セラミックにはいくつかの種類があり、基本的には保険適用外。クリニックによって価格は異なるが、おおむね金歯とセラミックは同程度。奥歯の詰め物だと約5万円、奥歯の被せモノだと約10万円は必要だ。

 ただ、セラミックを一部使用しているものには、例外的に保険を使えるものがある。

「2014年に、プラスチックとセラミックの混合物であるハイブリッドレジンという素材が保険適用になりました。条件を詳しくいうと、『上下前歯部から上下6番までが保険適用。金属アレルギーがあれば全部の歯に適用。ただし、7番が残っていること』。費用は、3割負担の方だと、1本あたり約5000~6000円程度です」(貝塚院長)

 ただ、注意点もある。

「(保険適用外の)セラミックに比べると柔らかいので、歯ブラシ等で細かなキズがつきやすく、歯垢などが付着しやすい。変色もしやすいです。睡眠時に歯ぎしりする人や、食事の時の噛む力が強い人は、ハイブリッドレジンや薄いセラミックは不向きでしょう」(同前)

 その場合は、強化セラミックか、現在最も硬いセラミックであるジルコニアという素材を検討するのがよいという。

 いずれにせよ医師が「銀以外にもこんな素材がありますよ」と提案してくれるとは限らない。歯には銀、と決めてかからず、患者からもどんどん相談しよう。

銀歯を外す前に……

 我々は今、口の中にある銀歯を外し、そこに虫歯が再発しているなら削り、改めてセラミックを入れるべきなのだろうか。

 今回取材した医師たちの中には、「可能ならばそうすべき」という意見もあった。だが、現実的には、長期間かけて治療し、何も問題がない(かもしれない)銀歯を剥がすのは、簡単にできる判断ではない。

 予防歯科学のスペシャリストである神奈川歯科大学の山本龍生教授が言う。

山本氏

「私の意見に反対の歯科医の方もいるかもしれませんが、私は、銀歯をすぐにセラミックに替える必要はないと思います。詰めものや被せものの素材も確かに大切ですが、最も重要なのは虫歯の進行を止め、再発しにくい口内環境を意識して作り出すことだからです」

 確かに、銀歯を外すと下に小さな虫歯が生じている可能性は大いにある。しかし、冷たいものがしみるなどの自覚症状がなければ、銀歯を外してまで慌てて治療することはないという。

 それよりまず重要なのは、虫歯ができにくく、進行しにくい口内環境をつくることだ。

 

「重要なのはセルフケア。といっても難しいことではなく、1日に少なくとも2回、フッ素入りの歯磨き剤を使って歯磨きすること。さらに1日1回、フッ素入りのうがい薬でうがいをすると、効果がもっと高まります。歯が溶けにくい環境を作ることこそ、科学的に最も効果的です」(同前)

 加齢や薬などの影響で唾液の量が減ると虫歯になりやすいなど、虫歯の再発リスクには個人差がある。ゆえに山本教授は「虫歯が進行しにくい環境にすることが、一度削った歯を守る最善の方法」と強調する。

 銀歯は決して“一生もの”ではない。歯の不調は認知症など、さまざまな疾患への入り口でもある。正しい知識と方法で、自分の歯を防衛していきたい。

 

source : 週刊文春 2021年3月4日号

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