朝の琵琶湖畔を悠々と走り抜けた大型SUVは、やがて駅前の通りに軽快なエンジン音を響かせた。運転席の男性が微笑むと、隣に座るJRAの騎手・藤田菜七子(24)もまた、笑顔で応じる。気怠そうに列をなす通勤の車を横目に、2人が乗ったSUVは、とあるマンションの駐車場へと吸い込まれていった――。
藤田がJRA史上7人目の女性騎手となったのは2016年、18歳のときのこと。16年ぶりとなる女性騎手の誕生と、その可憐なルックスも相まって、たちまち“菜七子フィーバー”が巻き起こる。3月に迎えたデビュー戦には63社、137人もの報道陣が詰めかけた。
「当初は『まだ結果も出していないのに』と、注目されることに悩んでいた。だが、師匠である根本康広調教師のもと才能を開花させ、着実に実績を積み上げていきました」(競馬担当記者)
彼女は、これまで女性騎手が成しえなかったGⅠ騎乗、重賞制覇など、次々と女性騎手のレコードを塗り替えていった。19年には獲得賞金額は6億円を超え、年収も6000万円を突破。そして、20年にはJRA通算100勝を達成した。
だが、2度にわたる骨折の影響もあり、19年の43勝をピークに、ここ2年の年間勝利数は右肩下がり。昨年の年収は、約2600万円に落ちた。
スランプに陥った藤田が考えたのが、拠点である茨城県の美浦トレーニング・センターを離れ、“武者修行”に出ることだった。
今年3月、〈これまでの藤田菜七子を1度、白紙に戻して、もう1度、ゼロから作り直そう〉(『TV Bros.WEB』22年5月号)と、滋賀県の栗東トレーニング・センターに、単身で乗り込んだのだ。
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source : 週刊文春 2022年7月14日号