週刊文春 電子版

茨城ボンネット暴走住職は信者800人 人生相談のプロ

「週刊文春」編集部
ニュース 社会
住職を務める一心寺
住職を務める一心寺

 防犯カメラは、犯行の決定的瞬間を捉えていた。

 茨城県笠間市泉にある国道と県道の交差点。信号待ちの間、白いセダン車の前に後ろから追いついた黒いジープが回り込む。セダン車がそれを振り切ろうとバックすると、ジープの助手席から降車する女性の姿が。

 数秒後、セダン車は進路に立ち塞がった女性をボンネットに乗せたまま、アクセルを踏み込んだのだ――。

 事件が起きたのは4月4日、日曜日の午後0時半過ぎ。白いセダン車を駆っていた同市の住職・田代貫章容疑者(78)は、茨城県警石岡署に殺人未遂の現行犯で逮捕された。

田代貫章容疑者
全ての画像を見る(2枚)

「被害者によると、田代の車は蛇行したり、ブレーキを踏んだりして振り落とそうとされたと。幸い女性に怪我はなかったが、一歩間違えば命に関わる危険な行為だった」(捜査関係者)

 被害者は坂東市に住む歯科衛生士の女性(30)。もう一台の防犯カメラは次の場面、女性をボンネットに乗せて走る田代の車と、慌てて並走する黒いジープの姿を記録していた。推定時速は30キロほど。田代の車は交差点から960メートルも進んだあたりで、ようやく停車したという。

 発端は、犯行の10分ほど前に遡る。常磐自動車道の石岡小美玉スマートインターチェンジ。下り出口を降りてすぐの一般道に、2台の車が停止した。

「車間距離が近い。あおり運転ではないのか」

 黒い車から運転手の男性が降り、常磐道で後続していた田代に抗議をした。ところが、田代は話の途中で車を急発進させ、その場から走り去ったのだ。

 その際、男性は「足を轢き逃げされた」と110番通報。警察と通話を繋げ、現在地を報告しながら田代の車を追走した。2台の車は国道355号の旧道を北へ。警察は安全運転を促しつつ、2人の実況を聞いて対応。冒頭の交差点に到達したのはインター出口から約7.6キロ地点だった。

「両車にドライブレコーダーはなく、交通トラブルの詳しい経緯や男性の轢き逃げがあったかどうかは捜査中。田代は“ボンネット暴走”は認めているが、殺意については否認している」(前出・捜査関係者)

女性を乗せたまま交差点を直進(石川勝己さん提供の防犯カメラより)

 だが、地元で取材をすると、“暴走住職”には別の顔が見えてきた。

 田代が住職を務める日蓮宗の一心寺は、現場からさらに4キロほど進んだ自然豊かな場所にある。

「田代住職は数十年前、厳しい修行を積み、『九識霊断法』という占いで人生相談を始めました。誰でも出入りできる信者寺で、信者の数は関東一円に800人ほどいます」(信者の一人)

 いわば“人生相談のプロ”。信者の女性が語る。

「息子が小中学校の頃、不登校になり、田代住職を訪ねました。住職は『お題目を唱えているだけでは何も変わりません。母親がそんな怖い顔をしていちゃダメですよ。息子さんではなくあなたが変わらないと』と諭してくれました」

 幼少期に両親を亡くした田代は、先代住職の里子として育てられた。高校時代に養子となり、先代の死後、寺を継承したという。

「田代は里親も引き継いだんです。養育費を稼ぐために、郵便局で働いていた時期も。寺では二代合わせて100人近くの里子を育てたはずです」(同級生)

 県の里親連合会副会長に就いたこともあり、実子が中学生の頃はPTA会長も務めたという。小学校高学年から中学校にかけ、田代の元で里子として過ごした30代の男性が振り返る。

「親じゃない人と住んでいるのが嫌で、家出したこともあります。でも田代さんは、反抗期を黙って見守ってくれた。当時、学校まで車で送り迎えしてもらいましたが、必ず安全運転でした。お寺を離れた後もずっと気にかけてくれ、僕の結婚が決まった時は本当に喜んでくれました」

 田代を知る者は「よほど混乱したに違いない」と犯行時の状況を庇う。しかし、罪は罪。暴走の事実は取り消せないが、嘆願書を募ろうとする動きもあるという。

source : 週刊文春 2021年4月22日号

この記事の写真(2枚)

文春リークス
閉じる