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「始まれば盛り上がる」菅が狙う9・9解散

「週刊文春」編集部
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昨年11月には来日したIOCバッハ会長と会談
昨年11月には来日したIOCバッハ会長と会談

「五輪中止はあり得ないだろ。感染対策をきちんとできる規律ある日本の姿を示すんだ」

 近しい知人に、最近こう訴えた菅義偉首相。コロナの感染が再拡大する中、首相が執念を燃やすのが、今夏の五輪開催だ。

「五輪は絶対やる」と菅首相
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 4月16日にバイデン米大統領との日米首脳会談に臨む菅首相。バイデン氏にとって、初の対面での首脳会談に招かれたこともあり、

「アメリカはすごく歓迎してくれてる。バイデンも地方議員出身だからね」

 と、浮足立っていたという。

「米中問題などの課題もある中、首相が訪米前にこだわっていたのが、五輪でした」(首相周辺)

 3月26日の参院予算委員会。野党議員から「開会式に招待するつもりか」と聞かれ、首相は「当然、そういうことになろうかと思います」と断言したのだ。

「米国側への根回しを行っておらず、外務省は大慌てでした。よほどバイデン氏を招待したかったのでしょう。ただ、78歳のバイデン氏はコロナを警戒しており、ハードルは高い。首相はテレ東の番組で4月1日、『招待するのは組織委員会で政府じゃない』と発言を“なかったこと”にしたのです」(同前)

バイデン米大統領

 かように五輪開催を実現したい菅首相。そこに立ちはだかるのが、コロナの感染拡大だ。緊急事態宣言に準じた対策を講じるまん延防止等重点措置が大阪府で4月5日から、東京都で12日から適用されたが、

「そもそもマンボウに後ろ向きな首相は『時短をちゃんとやればいい』と愚痴っていました」(同前)

 そんな首相の態度を田村憲久厚労相は周囲に、

「『大阪も凄いけど、東京も酷いことになる』と総理に強く言ったけど、刺さらなかった……。訪米があるから世論対策は大丈夫、という雰囲気だった」

 と嘆いていたという。

 以降も感染は拡大の一途を辿る。大阪では新規感染者が4月13日、初めて1日1000人を超え、吉村洋文府知事が緊急事態宣言の要請を検討し始めた。だが、

「首相としてはマンボウまでは受け入れても、緊急事態宣言の再発令は絶対に避けたい。それこそ、五輪中止の機運が高まってしまうからです」(官邸関係者)

 とはいえ、現実的に予定通り五輪を開催できる状況にあるのか。

 厚労省関係者が訴える。

「無観客開催だと、チケット収入が頼りの組織委は大赤字になってしまう。しかし、いざ観客を入れて試合を各地で行うとなると、圧倒的に足りないのが医師や看護師。ただでさえ、医療資源が逼迫する中、クラスターが発生したらどうするのか。そうしたロジスティックスは未だに明確に示されていません」

 言うまでもなく、ワクチン接種にも大幅な遅れが生じている。首相は就任当初、五輪開幕を意識して「21年前半までに全国民にワクチンを提供」と述べていたが、実際には、ようやく高齢者への1回目の接種が一部で始まったばかりだ。

安倍氏が「わざわざ桜かよ」

「田村氏は2回目の接種について『7月または8月の早い時期までに態勢を整えたい』としていますが、ワクチンの輸入は遅れている。多くの高齢者の2回目の接種は五輪開幕には間に合わないでしょう」(同前)

 ワクチン政策を官邸で取り仕切る、和泉洋人首相補佐官を直撃した。

――高齢者のワクチン2回目は五輪までに間に合う?

「それは……河野(太郎)大臣に聞いて下さい」

 その一方で、菅首相は五輪選手への優先接種を検討していたという。4月7日夜に共同通信が〈政府、五輪、パラ選手への優先接種検討〉と報じていたが、

「これは、杉田和博官房副長官が番記者とのオフレコ懇談で漏らした話。ただ報道後、猛反発の声が上がり、丸川珠代五輪相が『これから先も検討の予定はない』と否定せざるを得ませんでした」(官邸担当記者)

 しかし、ここで1つ疑問が湧く。ワクチン接種は遅れているとはいえ、来年には高齢者はもちろん、全国民への接種が実現する見込みだ。来年なら、観客を入れることもできるだろう。「1年延期」という選択肢はないのか。

「米放送局から巨額の放映権料を得るIOCのバッハ会長が再延期を否定しています。首相も『バッハと約束したから』と言うばかりで、IOCと再交渉する気はありません」(同前)

 というのも、首相自身が1年延期ではなく、今夏の開催に強く拘っているからだ。一体、なぜなのか。

「9月5日にパラリンピックが閉幕した直後の解散を狙っているからです」(前出・首相周辺)

 これまで首相の支持率は、コロナの感染状況とリンクしてきた。第四波が到来する中、この先、再び下降線を辿る可能性は高い。4月25日の衆参3補選・再選挙も劣勢だ。

「首相は無派閥です。“選挙の顔”にならないとなれば、昨年の総裁選で支えていた派閥も離れていく。特に、安倍晋三前首相が強い影響力を持つ清和会の動向を警戒しています」(同前)

 菅首相は訪米に向けた意見交換で3月29日、安倍氏の事務所を訪問。首相秘書官も外した半年ぶりのサシ面会だった。

安倍前首相

「安倍氏は首脳会議が延期される前、首相がポトマック川の桜を前に、バイデン氏と並ぶ演出があると聞いて、『わざわざ桜かよ』と言っていた。桜を見る会問題を抱える安倍氏には、皮肉に思えたのでしょう。この日は外交戦略に加えて『追い込まれ解散は避けるべき』と進言し、首相も殊勝に頷いていたようです」(安倍氏周辺)

 その菅首相が起死回生を目論むのは――。

「始まれば盛り上がるから」

 首相は側近らの前でこう口にしている。

「日本人は毎回、五輪が始まれば熱狂する。テレビ局も連日、感動ストーリーを報じます。今回もいざ開幕すれば、メダルラッシュに盛り上がると見ているのです」(前出・首相周辺)

 その勢いを買って、解散に持ち込めば、負けないという算段なのだ。

「その場合、9月9日解散―10月10日投開票などが考えられます。臨時国会を召集しての冒頭解散になりますが、戦後この例は3回あり、いずれも仏滅で与党が勝っている。9月9日も仏滅です。衆院選で勝利した上で、来る総裁選を無投票再選で乗り切りたい。そうなれば、長期政権の道も開けてきます」(同前)

 だが、本当に今夏の東京五輪開催が国民のためになるのか。五輪が首相の私利私欲のためにあってはならない。

source : 週刊文春 2021年4月22日号

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