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全国調査 聖火リレーに血税乱費116億円

組織委員会が費用を押し付け「島根」「福島」の嘆き

「週刊文春」編集部
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聖火ランナーを囲むスポンサーの宣伝車
聖火ランナーを囲むスポンサーの宣伝車

 4月12日午後2時、奈良県法隆寺には多くの観客がつめかけていた。

「“密”を避けるという話でしたが、これも無理な話でございます」

 聖火リレー開始前のミニセレブレーションで、斑鳩町長はこう苦笑した。

 聖火ランナーが東大門に向かって走り出すと、寺の外ではランナーを先導する最上位スポンサー4社の車両が大音量で音楽を鳴らす。

「コースにはみ出さないで。追わないで下さい」

 警備の注意も、“密”になった群衆によってかき消されていくのだった……。

 感染の再拡大を受け、一部地域に“マンボウ”が適用され、緊急事態宣言の再発令も検討される中、現在も全国を巡っている聖火リレー。一体、どれほどの経費がかかっているのか。

 実は、聖火リレーは全国の自治体が経費を負担している。つまり、税金が投じられているのだ。小誌は今回、公表資料(昨年度からの繰越額も含めた今年度の聖火リレー関連予算=パラリンピックを含める場合もある)などを基に、全国47都道府県の調査を行った。

 結果、その総額は約116億円――。

 最も多額の税金が投入されているのが、開催都市である東京都。かつて「ワイズスペンディング」を掲げていた小池百合子都知事だが、昨年度は聖火リレーに44億円を計上。内訳は警備、ランナー公募業務、看板の設置、区市町村への支援などだという。

小池都知事は「ワイズスペンディング」を掲げるが……
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 今年度の予算は400万円に留まり、昨年度からの繰越見込額が39億円と大半を占める。差し引き5億円はどこに消えたのか。

東京都は聖火リレーに39億円(今年度への繰越額)

「運営の準備などに使われました。昨年2月に羽村市、八王子市、国分寺市で行われたリハーサルでは約9000万円を支出している。都が各自治体にルート決めを任せてしまったことで、予算膨張に繋がった面もあります」(都庁関係者)

 東京都の回答。

「ルートやランナーの選定のほか、ルート沿道やセレモニー会場における警備体制等を検討した上で、区市町村等の関係者と協議して警備計画やセレモニー計画等を策定している」

「隊列の縮小はできません」

 3月25日から始まった聖火リレー。スタートは「復興五輪」の象徴である福島県からだった。今年度は3日間のリレーで約2億円かかったという。

 ただ、福島県には“特殊な事情”があった。五輪延期が決まったのは、昨年3月24日夜。その2日後の26日からスタートするはずだった聖火リレーも急遽中止となったのだ。

「沿道警備のキャンセル料として約2.5億円が発生した。福島県の後に聖火が通過する予定だった群馬県でも、5000万円近いキャンセル料が生じました」(社会部記者)

 福島県は、組織委などにキャンセル料の負担を求めていたが、

「4月9日時点で、いまだに支援はありません。引き続き要請をしているところです」(同県オリンピック・パラリンピック推進室)

 5月15日からリレーを実施する島根県。今年度は約7200万円を計上しているが、同県スポーツ振興課の担当者が嘆息する。

「組織委と県が結んだ協定では、車両や物資を組織委が聖火リレーの各会場まで運ぶことになっていました。ところが大会の簡素化が決まると、県までは組織委員会が運ぶものの、そこから会場までは県が運ぶことを突然求められたのです。しかし、離島が多い島根では輸送費が大きく膨らんでしまう。協定違反ではないか、と組織委に訴えています」

 4月6日、組織委が本部を置く晴海トリトンスクエア。島根県の丸山達也県知事は、布村幸彦副事務総長と対峙していた。協定違反を訴えるとともに、こんな要望も伝えていた。

「数百メートルにわたるスポンサー車列の一部が、ランナーというのが客観的事実。ランナーのための聖火リレーに改善して欲しい」

 ところが丸山氏の訴えに、布村氏はこう答えるのみだったという。

「(宣伝車の)隊列の縮小はできません。音量の縮小は検討します」

 一方、大阪府では公道での聖火リレーを中止。鳥取県でも昨年度から約9000万円を計上していたが、鳥取砂丘をコースから外すなど規模を縮小した。余剰予算を感染対策に回す方針だ。

 平井伸治県知事が語る。

「鳥取県で9000万円ものイベントは、1年に1回あるかないかの規模。しかし、今は第四波が来ている状況です。東京の歌手やタレントが出て盛り上がるようなイベント的色彩もありますが、地方でも同じ形で開催する必要はありません。ただ、規模縮小を求める折衝は非常に困難だった。経費負担はスポンサーと鳥取県ですが、主催者は組織委ですから私どもに決定権がないんです。橋本聖子会長と2回ぐらいお話をして、それでご理解頂きました」

組織委の橋本会長とIOCのバッハ会長

 組織委関係者が内情を明かす。

「日本コカ・コーラなど聖火リレーの最上位スポンサー4社とは、高額な契約をすでに結んでいます。宣伝車に乗るDJなどとの契約も済んでおり、組織委としては、できればリレーの規模は予定通りのままいきたい。それで、規模縮小を求める島根県知事や鳥取県知事に抵抗したのです」

 各自治体が多額の税金を投じる聖火リレー。予算計上額の上位に並ぶのは、青森県(約4億円)、宮城県(約4億8000万円)、千葉県(約5億7000万円)、神奈川県(約5億6000万円)、静岡県(約5億9000万円)などだ。

「厳重注意」後に再び車両事故

 では、こうした税金はどこに流れているのか。大手広告代理店・電通である。

 例えば、東京都が発注した〈東京2020聖火リレー実施運営支援業務委託〉を今年3月30日、約35億円で落札したのは、電通だった。入札経過書によれば、東急エージェンシーや博報堂なども入札に参加しようとしたが、結局、辞退している。

 電通はこれまでも、東京都から〈聖火ランナーの募集業委託〉(約3億4000万円)などを受注してきた。また、他の数多くの自治体からも系列会社が運営委託を受けている。

「随意契約が多いのですが、他の広告代理店と比べても、電通が圧倒的に有利な立場です」(電通関係者)

 どういうことか。

「そもそも電通は14年に組織委と『マーケティング専任代理店』契約を結び、組織委から17年に聖火リレーの運営業務の委託先に選ばれている。計画やガイドラインの作成や自治体との調整支援を担ってきました。自治体からしても、聖火リレーと言えば、電通という状況なのです。組織委と電通の委託契約額については、朝日新聞が『19年末予算で50億円を委託費に計上したが、大半が支払い済み』などと報じています」(別の組織委関係者)

 その電通が運営している聖火リレー。小誌先週号ではこれまで3件の車両事故を起こし、組織委が電通に「厳重注意」を行ったことを報じた。ところが、

「車両をバックする際に1人降りて補助するなどの注意喚起があったものの、人手不足の状態は変わりません。各都道府県を回るスタッフは疲弊している。4月10日には、和歌山県で新たに事故が起きて、車両1台が使用不能になりました」(同前)

 一連の問題に組織委はどう答えるか。事実関係の確認などを求めたところ、

「(島根県には)組織委員会による協定違反は無い旨を回答しています。

(聖火リレー事業の電通との契約額は)個別の契約内容については、契約上の秘密情報ですので、非公表とさせていただいています。

(事故は)4月10日に撮影関係車両が、道路標識に接触し、左側ドア底部に凹みが生じました。走行に問題はないものの、修理のため別の車両で代替しています」

 感染が再拡大する中、多額の税金を投じてまで、聖火リレーを続ける意義はどこまであるのか。

公道での聖火リレー中止を決めた吉村府知事

source : 週刊文春 2021年4月22日号

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