「加瀬さんは?」姿が見えなくなるとそう口にする程、信頼をよせていた沢田。13年間を共に走った盟友、加瀬邦彦の献身とは。
(しまざききょうこ 1954年、京都市生まれ。ノンフィクション・ライター。著書に『森瑤子の帽子』『安井かずみがいた時代』『この国で女であるということ』『だからここにいる』などがある。)
沢田研二は、ジェンダーをやすやすと越境したインディペンデントなスーパースターである。
1980年生まれの文筆業にして腐女子、岡田育の初恋の芸能人は沢田だった。三つの時に、紅白歌合戦で煙幕とサーチライトに包まれ「晴れのちBLUE BOY」を歌う軍服姿のジュリーを観て、その後のフェティシズムを決定づけられた。
「おかげで私は、女らしくあるためにお化粧に関心を持つ前に化粧とは美しい男がさらに妖艶に化けるためにするものと刷り込まれ、自分がきれいになるより自分ではないきれいなものを崇める方向に走りました。ひらがなも読めない幼児にさえ、ジュリーを通してある概念がビジュアルで伝わった。性にまつわるステレオタイプを押しつけられようとも強く撥ねつけられたのも、テレビ越しに美しいジュリーを観ていたから。別のアイドルやロックシンガーなら今の自分はないでしょう」
2月14日まで東京都現代美術館で開催されていた石岡瑛子の回顧展「血が、汗が、涙がデザインできるか」の一角には、沢田のヌード写真が飾られてあった。上半身裸の沢田が目をとじて、両手を挙げる一枚には「男たちについて語りあう日がやってきた」のコピーが、同じく上半身裸で、唇を赤く塗った沢田が胸の前で両手を交差している一枚には「時代の心臓を鳴らすのは誰だ」のコピー。どちらもパルコ1979年メディアキャンペーンポスターである。右の壁面には、翌80年に発売された写真集『水の皮膚』のカバーと、コバルト色の海に仰向けに浮かんだ沢田の全裸写真が並ぶ。観客の誰もが、ここで足を止めた。
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source : 週刊文春 2021年4月29日号