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「インド変異株」の巨大リスク

「週刊文春」編集部
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新規感染者数最多を記録したインド
新規感染者数最多を記録したインド

 4月22日、加藤勝信官房長官は、新型コロナウイルスの「二重変異株」が国内で5件確認されたと発表した。

 二重変異株とは、従来の英国型、南アフリカ型などとは違い、1つあたり2つの変異を持ったウイルス。インドで最初に検出された“新型”だ。

加藤官房長官
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 インドでは、昨年9月の“第一波”のピーク時に一日あたりの新規感染者数が9万人を突破。その後は減少に転じ、2月中旬には1万人を割っていた。

 だが、3月に二重変異株の存在が確認されて以降、感染者数は爆発的に再上昇。4月23日には約33万2000人と、一日あたりの新規感染者数の世界最多を更新。一日あたり死者も2000人を超えたのだ。

 首都ニューデリーでは医療用酸素の大幅な不足、病床の逼迫など、まさに医療崩壊の様相を呈している。

 兵庫県の尼崎総合医療センター・感染症内科医長の松尾裕央医師が、そのリスクを語る。

「インドの二重変異株については非常に強い不安を抱いています。英国株が出てきた時も『どうなるか』と見ていたら、今のような事態になった。二重変異株が何をもたらすかは、英国株の時以上に慎重に見ないといけない」

 そして、現状では科学的な情報が出揃ったとは言えないとしつつ、

「インドで今起きていることを見ると、『要警戒』というのが自分の考えです」

 愛知県瀬戸市の地域医療支援病院である、公立陶生病院感染症内科主任部長の武藤義和医師は言う。

「感染しやすい、重症化しやすい、ワクチンが効きにくいことなどが実証された変異株を『VOC』(Variant of Concern)と分類しますが、英国型やブラジル型の変異はⅤОCだった。インドの二重変異がⅤОCかどうかが問題です」

 その上でこう考察する。

「以前のものとは質が違う」

 

「感染力が従来のウイルスよりも高い可能性がある変異と、ひょっとしたら、すでに感染した人も再感染するかもしれないと疑われる変異の両方を持ったウイルスが、インドで見つかった。そして今回、日本国内でも5例確認された。それが今私たちが直面している事実です。このウイルスの性質や、広がり方が我々にどう悪影響を及ぼすかが、これから評価されていくこととなります」

 そもそもなぜ、ウイルスの変異が問題なのか。ウイルス感染免疫学が専門の、近畿大学医学部・宮澤正顯教授が解説する。

「流行開始以降、新型コロナウイルスは人への感染を繰り返して変異を重ねてきました。主流のウイルスが置き変わること自体は、今回が初めてではない。

 ウイルスの表面にあるスパイクという突起状のタンパク質が細胞にくっつきやすくなったという変異は、昨年にも起きましたが、結合力がさらに強くなったのが英国型。つまり、ウイルスの増え方の効率が良くなったのです。感染者体内のウイルス量も増加している。

 英国株は元々イギリス東南部で流行が始まりましたが、あっという間に英国中に蔓延した。今の大阪がまさにその状況です。英国では従来型と比べ、感染の拡がる速度が1.4倍から2倍近いというデータも出ています。また、国立感染症研究所は、人から人への拡がりの速さを示す実効再生産数が従来型の1.32倍と公表しました」

 変異株がもたらす変化を、日々コロナ感染者を最前線で診療している現場の医師は敏感に感じ取った。武藤医師が語る。

「2月、3月あたりから、それまでとは治療の経緯が異なる患者さんが増えた」

 従来なら、発症から7〜8日目あたりが悪化のピークだったのが、そこからまた徐々に悪くなったりすることもあるという。

「『このまま回復していきそうだ』と思っていた患者さんが、数日後には1分間に20回、30回も呼吸するような状態に陥る。これは『ヒー、ヒー』という呼吸の状態ですから非常に苦しい。肺のレントゲンもだいたい3日おきに撮影するんですが、発症から7日目くらいに悪化し、10日目くらいに症状のピークになることが多かったのが、12日目くらいにずれこんだりする。要するに、ダラダラと悪くなるし、峠を越えても治るのがとても遅い」

 松尾医師も同様の見解を示した上で、もうひとつの特徴を挙げる。

「第三波までと比べると、第四波では40代、50代という比較的若い人の重症化例が劇的に増えている。今、この年齢層で集中治療室管理となる症例が非常に増加している。ウイルスが以前のものとは質が違う、という感覚があります」

 兵庫県の長尾クリニック院長・長尾和宏医師は、変異株がPCR検査をくぐり抜ける可能性も指摘する。

我々はどう対応すべきか

ワクチンは変異株に有効か

「インドでも『PCR検査が陰性の肺炎』が増加しているといいますが、当クリニックでも先日、臨床症状とCT画像から99%コロナ感染が疑われるのに、抗原検査もPCR検査も陰性だった人が4人続きました。いわゆる第四波に入って、このケースが増えています。PCR検査が本当に変異株も捕捉できているのかどうか、早急に検証する必要があるでしょう」

 今もっとも懸念されるのは、高齢者への接種が始まっているファイザー製ワクチンが、変異株に効果があるのかということだ。英国株については、ファイザーと共同開発したビオンテック社が「有効性が報告されている」としている。

 インド二重変異株についてはどう考えるべきか。

 この変異株が有するのは、南ア型の「E484K」という変異と、カリフォルニア型と呼ばれる変異株が持つ「L452R」という変異(正確には、E484Kと同じ部位に起こった別の変異)。

 宮澤教授が言う。

「E484Kは、『南ア型は従来型と同程度の抗体では中和されにくい(病原性を抑えにくい)』と言われる原因と考えられています。が、ファイザーのワクチンで誘導された抗体は、南アフリカ型にも有意に反応するという報告があります。一方、L452Rは、抗体による認識が低下する可能性が報告されている。

 ただ、これら2つの変異を持つインド株が、ワクチンの有効性を心配しなければいけない変異型かどうかは、まだわかりません。インドで開発されたワクチンで誘導された抗体は、インド株を中和できるという報告もあります」

 英国株の流行当初、英国でみられた爆発的な感染拡大と、今インドが置かれている状況。ワクチンの効果が判明するまでは、我々はインド二重変異株という巨大なリスクに新たに直面したと認識すべきだろう。

 ではどうすればいいのか。松尾医師は、「今さらといわれようが、何度でも言いたい」として強調する。

「結局、基本を徹底するしかないのです。つまり手洗いやマスクの徹底。そして3密を避けること。これを徹底すれば、従来株であろうが英国株であろうが、インド二重変異株であろうが防げるのです。このことだけは忘れないでいただきたいと思います」

【お詫び】
本記事の後半、「E484Kは、『南ア型は従来型と同程度の抗体では中和されにくい(病原性を抑えにくい)』と言われる原因と考えられています」で始まるコメントは、記事公開時、公立陶生病院感染症内科主任部長・武藤義和医師のコメントとしておりましたが、正しくは、近畿大学医学部・宮澤正顯教授のコメントでした。武藤医師、宮澤教授、ならびに読者の皆さまにお詫びし、訂正いたします。

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source : 週刊文春 2021年5月6日・13日号

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