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日大田中理事長「悪あがき」の粛清人事 側近に背任疑惑浮上も

「週刊文春」編集部
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「日本大学アメフト部の悪質タックル問題についての第三者委員会の調査報告の公表を前に、田中英寿理事長による報復人事がすでに始まっています。日大の34ある体育会の運動部のなかで、最近になって二人の部長がクビになりました。田中理事長の辞任を求める日大教職員組合の要望書に賛同し、署名したことが原因だとみられています」(日大関係者)

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 7月上旬、ある運動部の部長を務める特任教授の携帯電話が鳴った。本部直属の保健体育審議会(以下、保体審)の事務局スタッフからで、部長職を解任するという通告だった。

 特任教授本人がその経緯を語る。

「私の方から理由は聞きませんでしたが、保体審のトップは大塚吉兵衛学長で、田中理事長も深く関わっています。(解任は)辞任要求に署名したからだと受け取りました。私は昨年3月で教授を退職しているのですが、その後も運動部の部長は続けていました。一説には署名したリストをみて電話をしているという話もありますが、詳しいことは分かりません」

 別の運動部で部長職にあった現役教授も同様の電話を受けたという。

「解任という文言はなかったのですが、明確な理由もなく、また私自身も辞める意思はなかったので、単なる交代ではないと感じています。今後、学生を守りたいという純粋な気持ちから署名した教員、特に若い教員の将来に影響が及ばないことを願っています」

 日大アメフト部の悪質タックル問題で、その“病巣”は学校法人のトップである田中理事長の独裁体制にある。そう内部からいち早く批判の声を上げたのが、他ならぬ日大教職員組合だった。

「まず5月31日には大学側に上層部の“解体的出直し”を求める要望書を突き付けた。6月11日には賛同する教員ら752人分の署名を提出しています。その際、報復人事の恐れがあるため大学側に提出する名簿に氏名を公開していいかを個別に確認していたことが話題になりました。その後はネットなどを利用して大学内外から約7000名の署名を集めました」(前出・日大関係者)

 しかし、大学側は批判を謙虚に受け止めるどころか、悪あがきともとれる姑息な“粛清人事”を行なっていたのだ。

「そもそも田中理事長は第三者委員会の設置自体について不満を漏らしていました。第三者委員会は、田中氏に知恵者として重用されていた常務理事の大里裕行氏が文科省やスポーツ庁に呼ばれ、苦し紛れに発案したものです。しかし6月末に公表された中間報告が想像以上に厳しい内容になってしまった。そのため田中氏は『お前が勝手に決めやがって』と大里氏に激怒。以来、彼は田中氏に遠ざけられているのです」(同前)

 さらに田中氏を苛立たせているのは、日大が出資し、大学運営サポートをする目的で2010年に設立された「株式会社日本大学事業部」の内情だという。

側近たちのやりたい放題に不信感

 小誌は先週号で田中氏の側近で、悪質タックル問題の“もみ消し工作”を行なっていた大学理事の井ノ口忠男氏の辞任について書いた。

 井ノ口氏が日大事業部の事業企画部長という“発注者”の立場にありながら、自分が代表を務める会社を“受注者”としてコンサルタント契約を結び、多額のコンサル料を得ていた問題を指摘したのだ。

「田中氏はコンサル契約のことを文春の記事で初めて知ったようです。井ノ口氏は事業企画部長としての報酬は受け取っておらず、コンサル料のみを得ていたのです。田中氏は『大里からは何も聞いていない』とショックを受けていました。日大事業部の帳簿とカネの管理についても疑問が浮上したことから、井ノ口氏だけでなく、今年5月末まで日大事業部の取締役だったアメフト部の内田正人前監督ら側近たちのやりたい放題に不信感を募らせていました」(日大幹部)

 日大事業部の強引な営業姿勢はかねてから問題視されてきた。昨年10月の理事会で、日大事業部が外部との委託契約や物品調達の窓口をほぼ独占する形に決まると、その傾向はさらに顕著になったという。

「納入業者には一律15%とも言われる値引きを強要しながら、日大には上乗せした金額を請求していたのです。要するに仕入れと卸しの両方で“中抜き”をしている。その実例は枚挙にいとまがありません」(同前)

 今年3月の卒業式では、ガラスで有名なオーストリアのメーカーのワイングラスに校名と校章を入れた記念品が卒業生に贈られた。これまで卒業記念品は各学部がそれぞれ用意してきたが、今年は日大事業部が一括して仕入れ、各学部に買わせたのだという。

「卒業生分として約1万6000個を注文したのですが、これだけの大口取引であれば値引きも当然あるはずですが、仕入れ値は定価の1個2500円。しかも、印刷代や箱代まで上乗せされており、1個につき1000円以上が加算されていたそうです。誰もが日大事業部を通さなければ格段に安く買えることを知っていながら、井ノ口氏らの意向に逆らえず、割高で購入させられたのです」(同前)

 企業法務に詳しい弁護士はこう指摘する。

「一般的に、雇用契約を結んでいる従業員がコンサル契約名目で自分の会社にお金を流して損害を与えていたとすれば、背任などの刑事責任、民事上の不法行為を問われる可能性があります。またこれを承認した取締役の責任問題も問われかねません」

明大卒の広沢氏となぜか契約

 司令塔を失った日大事業部は現在、機能不全に陥っているとされるが、井ノ口氏辞任の余波はそれだけに止まらない。

「井ノ口氏の紹介で、元プロ野球選手の広沢克実氏が保体審の非常勤嘱託として契約を交わしており、月々の報酬も得ています。明治大学出身の広沢氏がなぜ日大と契約をするのかと疑問視する声は以前から学内にありましたが、彼の今後の処遇も気になるところです」(前出・日大幹部)

 広沢氏は小誌の取材にこう答えた。

「もともとアメフトが好きで、応援しているなかで日大事業部の井ノ口さんに大変お世話になり、保体審のアドバイザーをしてみないかとお誘い頂いたのです。野球やアメフトを含めた色々なところでアドバイスを求められており、今年で3年目になります」

左が井ノ口氏、奥は広沢氏、手前中央が内田氏(内田氏のフェイスブックより)

 井ノ口氏の暴走を許した責任は当然、田中氏にもある。また田中氏自身も似たような情実人事を行なってきた。

「日大の秘書課には、田中氏と昵懇の仲で、危機管理学部の新設に尽力した亀井静香前議員の元秘書の娘や田中夫人お気に入りの遠藤関の師匠、追手風親方の娘もいます。田中氏の甥っ子が高校教師から日大の専任講師になったことも学内ではよく知られた話です」(別の日大関係者)

 今回の“粛清人事”について、日大側は「個別の案件についてはお答えを差し控えます」(広報課)と回答を避けた。だが、水面下で田中氏は体制の延命に向けて秘策を練っているという。

「文科省に恭順の意を示すため、私学事業団を通じた年間90億円を超える補助金の返上計画まで文科省側に打診してきているそうです。そこまでしても理事長の座を死守したいのです」(文科省関係者)

 我が世の春を謳歌してきた田中体制が崩れる日は来るのか。

source : 週刊文春 2018年8月2日号

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