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「エビデンス」より「情緒」が威力を発揮する社会

会見には記者300人以上が詰めかけた ©文藝春秋

 私にも思い当たるところがあります。いやありまぁす。個人的な話ですが、私横浜DeNAベイスターズというプロ野球チームを応援しておりまして、これがなかなか「勝ち」に遠い、すなわち他のチームと比較して一つの「勝ち」の価値が高いチームと言えます。確かに、予測不能な負け方をしたり、名誉とは言い難い記録を次々と塗り替えたりしますので、真正面から相対すると徐々に精神が蝕まれていくことは否めません。しかし一方で強烈な魅力と中毒性がある。

 そう、小保方さんにとってSTAP細胞ありきの世界が正義だったように、ベイスターズファンにとってはベイスターズありきの世界こそ真実なのです。ゆえに、長年ファンをやっていると「ベイスターズは宇宙の法則によって動かされている」だの「勝ちや負けで野球を見るのは下品」だの「ベイスターズは野球というより概念」だの、ファンタジーの世界に逃げ込みがちになる。そしてファンタジーを表現する言語野だけが異常に発達してしまう傾向にあります。小保方さんもまた、騒動後の著書や対談などを追っていくと、科学者にとっての芯である「研究」については「ありまぁす」で処理なのに、ただ自分の正当性、被害者としての「情緒」については饒舌極まりない、まさに天賦の才を発揮している。そしてそれが、ある世間ではものすごい威力になっているのです。人間は、エビデンスには強気になれても、意外と誰かの情緒の前では無力だったりしますから。この辺りもまた、小保方さんの「味方づくり」に幸か不幸か加担してしまった社会の弱点なのかもしれません。

 平成最強の自分好き、小保方晴子さん。自分を愛し、また周囲に自分を愛させる達人。様々な人を味方にした小保方さんが、唯一味方にできなかったのが「STAP細胞」と考えると、こんな皮肉な話もありません。いやありませぇん。小保方さんの自己愛というパンドラの箱は、まだ開かれたままなのです。