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漫画みたいな現実 藤浪晋太郎と佐藤輝明、ふたりの“規格外”が交差した瞬間

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/04/24
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この状況を楽しまないほうが野球の神様に申し訳ない

 1週間後の4月16日甲子園。ヤクルト相手に藤浪は今季2勝目をあげる。2ー0。阪神打線は、現役最多勝投手・石川雅規の巧みなピッチングに半ば翻弄されていた。攻略の緒(いとぐち)が見えないまま迎えた5回裏、バッター藤浪が2ランホームランを放つ。「獲物は一発で仕留めるものだぜ」。そんな無言の声さえ聞こえてきそうな一撃、ならぬ、一振りだった。

 この一振りは藤浪にとって、たんに2勝目を引き寄せただけではない。甲子園での1450日 ぶり(!)の勝利を手繰り寄せるものでもあった。それは同時に、過去との決別を高らかに宣言することでもあったように思う。「いろいろあったが、もう大丈夫」。そうしたこの数年の停滞だけでなく、今シーズンの新戦力の失敗までも、自らのバットで「帳消し」にした。地元のファンに向け、ひとまわりもふたまわりも大きくなって戻ってきた姿を、はっきりとわかる形で藤浪投手は表現してくれた。 

 今、私の周りの阪神ファンは、そわそわしている。こんなに勝つことに慣れていないからだ。だけど、素直に楽しめばいいだろう。漫画のようなホームランを打つルーキーがいる。凄まじく大きな挫折を乗り越え、打ってよし投げてよしの豪速球右腕、傷だらけのエースがいる。この状況を楽しまないほうが野球の神様に申し訳ない。

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 昨季、韓国野球でMVPを獲ったロハスJr.が早晩、一軍に加入するだろう。そうなると、再び、佐藤の定位置が脅かされる。

 今シーズンの終盤になったとき、佐藤はレギュラーを維持できているだろうか。もしできていれば、きっと、再び、私たち皆を「あっ」と言わせる何かを起こしたからにちがいない。それとも、案外、堅実派の高打率バッターへ転身しているとか? とにかく、佐藤選手の予想のつかない成長を見守るのも、今シーズンの大きな楽しみの一つである。

 藤浪投手に関しては、もう、何の心配もない。毎週の登板を楽しみに待つばかりである。

 そして、阪神ファンがやることは、心ゆくまで楽しむこと。これに尽きよう。なぜなら、いま私たちが日々目にしているのは、漫画の中の出来事ではなく「現実」なのだから。

 3連敗? 藤浪、四死球7?? だいじょうぶ、だいじょうぶ。だい……。

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