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「オリンピックが開催できる状況ではない。その決定的理由とは」公衆衛生の第一人者が断言《渋谷健司氏緊急寄稿》

2021/05/25
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今や日本は人口当たりの「新規感染者数」で英国を上回った

 新型コロナの感染者は日本は欧米に比べて桁違いに少ないといわれていたが、今や人口当たりの新規感染者数では英国を上回っており、また、欧州の主要国に比して、陽性率(全検査数に占める検査陽性者の割合)が高い状況が続いている。ワクチン接種や検査拡大が遅れに遅れている状況の中、東京五輪の開催の是非に関する議論がますます盛んになっている。

 筆者らは4月に英国医学会雑誌(BMJ)に「東京五輪を再考すべき時」という論考を発表した。それは、イデオロギーや感情的議論ではなく、科学的かつ現実的な議論を今こそ行うべきという考えからであった。だからこそ、どのような条件であれば国際的な大人数のマルチスポーツイベントが開催できるのか、そして、今の日本や世界がその条件を満たすことができるかどうか、ということを冷静にかつオープンに議論し開催の可否を判断すべきだ。

合同記者会見で発言するIOCのジョン・コーツ調整委員長(後方モニター)。右は東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の橋本聖子会長、左は武藤敏郎事務総長 ©️時事通信社

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 しかし、いまだに、こうしたオープンな議論はなされずに、開催まで残り10週間を切り、なし崩し的に開催に向けて進んでいるようにも見えてしまう。恐らく政府をはじめとする関係者は、アスリートの雄姿を世界中の方々が楽しむ場を残すことができないかとギリギリまで見極めをしようとしているのではないかと思うが、開催するかしないかの感情的な対立は全く生産的ではない。何よりも、オープンな議論ができない状況は日本にとってもマイナスだ。