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ルール破り、恫喝、支離滅裂……それでもなぜ自民党政権は揺らがないのか

内田樹×武田砂鉄 その2

source : ライフスタイル出版

genre : ニュース, 読書, 政治, 社会, ライフスタイル

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怖いのは没論理的で感情的な権力者の暴走

武田 権力者側が、あまりに論理性のない、支離滅裂なことを続けてくると、受け止める方は真面目に批判するしかない。権力を茶化すのって、権力側にある程度の背骨があるからこそできることですが、茶化す以前に、背骨のない権力に茶化されているわけです。だって、巨費をかけてアベノマスクを配るというのは、もはや国家的ギャグです。数百億円をつかったギャグです。国家的なギャグをバカにしても、投じてくるほうが面白い。こうなると、真面目に言葉を尽くすのが虚しくなってくるわけです。

武田砂鉄氏

内田 そうです。どれほど権力があっても、統治者が論理的・知性的にふるまう限り、「恐れられる」ということはありません。怖いのは没論理的で感情的な権力者の暴走なんです。ふつうは統治者は論理的・知性的にふるまい、それに対抗して「若者」たちが感情的で非論理的な思いをぶつけてゆくというのが反権力の基本構図なんです。ところが、この9年間でその図式が逆転した。権力を持っている人たちの方が没論理、反知性主義で感情的にふるまうようになった。そうすると反権力の側は権力者の側とは違うマナーで対抗しないといけないから、いきおい論理的で冷静にならざるを得ない。

 でも、権力を持っている側が没論理的で感情的であることを意図的に選ぶと、もう勝負にならないんですよ。反権力の運動にこそ熱狂が必要なのに、「政治的に正しいこと」を論理的・非情緒的にぼそぼそと語ることを強いられるわけですから。それでは、国民の政治的なエネルギーを搔き立てることができない。

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政治家が率先してルールを破り「熱狂している」

武田 コロナ禍で国民の大半が出歩くのを控えている中で、誰よりも先に政治家が率先してルールを破り、銀座のクラブに通い、ステーキ会食をした。平井卓也デジタル改革担当相に至っては恫喝して、それこそ「熱狂」している。そうやって熱狂している人たちを、私たちのほうが、冷静になって「よくないですよ」「またですか」「どうしてそんなことをするんですか」と見続けています。

内田 そうです。河野太郎が威張り散らして、パワハラで部下を脅かすとか、むしろ権力側のほうが抑制が効かなくなっている。たとえ演技でも、つねに冷静で論理的にいるのが公人の義務であるはずなのにそれを完全に引っくり返した。これに対してはもっと感情的で没論理的なカウンターを組織しないと歯が立たないわけですけれど、それって「どちらが幼児的か」を競うようなものですからね。

 歴史的に見ても、独裁者は必ず没論理的・感情的にふるまうものなんです。オバマとトランプを比べた時に、どちらがより権力者として「怖い」かと言ったら、圧倒的にトランプの方が怖いわけです。やることが首尾一貫していて、論理的で、自分が何をしようとしているのかをきちんと言葉で説明できる政治家の場合には、その人が次に何をするか予測できるから、別に怖くない。でも、非論理的で感情的で、約束を破ることも首尾一貫しないことも気にしないという権力者は怖い。みんなが顔色をうかがう。だから、権力的であることをめざす政治家は必然的に没論理的で感情的にふるまうようになる。