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イラン女性の社会進出や異常気象も…司馬遼太郎の幻のデビュー作『ペルシャの幻術師』が”新しい”ワケ

『ペルシャの幻術師』2巻発売記念 蔵西さん×高木小苗さん対談<後編>

2022/05/20

source : 文春コミック

genre : エンタメ, 読書

note

雨を降らせる悪魔の石は幻術師の継承の証

高木 物語のキーになる悪魔の石に関しては、ジャダ石という、当時モンゴル・トルコ系諸民族のシャマンが風雨を起こす魔術に使用していた石も意識しているんじゃないでしょうか。

 じつはこれ、牛や馬の結石なんだけれど。『元朝秘史』のなかでも、シャマンがこの魔術を使っているんです。

魔力に満ちた石をナンに見せるアッサム(『ペルシャの幻術師 2』より)

蔵西 じゃあ、やっぱり、最後のシーンでナンがアッサムの悪魔の石を持つのは、幻術師としての「継承」として描いても正解だったということですね。

高木 それはすごくおもしろいと思いますよ。動物の結石は、西アジアでも薬などとして、使われていたので、幻術師のような人たちが持っていてもおかしくない。

 ラストのシーンでは、テヘランの博物館に、この石がありますね。

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博物館を見学している女性たちは髪や体のラインを隠している(『ペルシャの幻術師 2』より)

蔵西 もちろん本当は置かれていないですけど(笑)。こういうところも司馬先生は演出がニクいです。本当にあると思っている読者も多いんじゃないかな。

 そういえば、ラストの博物館を描く現代の場面で、「外国人観光客の女性が髪を隠していない」こともご指摘をいただいて直したんです。やっぱり現地にいけないと感覚がわからないこともありました。