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日本語に訳すと「ぶっ殺せ」…アントニオ猪木の永遠のテーマ「イノキ、ボンバイエ!」はいかにして生まれたのか

日本語に訳すと「ぶっ殺せ」…アントニオ猪木の永遠のテーマ「イノキ、ボンバイエ!」はいかにして生まれたのか

2022/10/09
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 3年後の1977年にアリの伝記映画『アリ/ザ・グレイテスト』が制作されるのだが、テーマ曲として“アーリッ、ボマイェ!”の連呼で始まる『ALI BOM-BA-YE(アリ・ボンバイエ)』が作曲家マイケル・マッサーによって作られた。これが『炎のファイター』の原曲だ。

ジャケットには猪木とアリの写真が並ぶ『炎のファイター-アントニオ猪木のテーマ』。収録されているのは『ALI BOM-BA-YE』の方である。この曲自体が1972年のイタリア映画『I figli chiedono perché(イ・フィーリ・キエドノ・ペルケ)』のテーマ曲に似ているとの噂もあるが、果たして……?

アリから曲をプレゼントされたことになっているが、実は…

 なぜアリの映画のテーマ曲が猪木のテーマソングになったか。きっかけは前年1976年の猪木vsアリの異種格闘技戦に遡る。猪木にとっては圧倒的に不利なルール設定となるなか、アリキックでアリのパンチを封じ込めて15ラウンド引き分け。現在の総合格闘技の源流とされる伝説の試合だが、この死闘の後にアリの結婚式に招待された猪木夫妻へこの曲がプレゼントされ、曲を気に入った猪木が自らのテーマ曲にした……というのがオフィシャルストーリーとなっている(※1)

 だが、実際のところは当時の猪木の参謀役、新間寿氏の暗躍が大きかった。前出『アリ/ザ・グレイテスト』の試写会に赴いた新間氏は劇中で流れた『ALI BOM-BA-YE』に感銘を受け、まだ選手個別の入場テーマがなかった時代に「猪木のテーマにぴったりだ!」とアリのマネージャーに交渉。その場で契約をまとめ、猪木のテーマ曲としての使用が可能になったのだという(※2)。猪木アリ戦を実現させ、新日本プロレス全盛期を猪木とともに作り上げた新間氏の辣腕ぶりはこんなところでも発揮されていたのだ。

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 かくして猪木のテーマとなったこの曲は、すぐさまシングル盤レコード『炎のファイター-アントニオ猪木のテーマ』としてリリースされる。しかしジャケットには猪木とアリの写真が並び、ジャケットの隅に『アリ/ザ・グレイテスト』オリジナルサウンドトラック盤と明記されていることからもわかる通り、収録されているのは“アーリッ、ボマイェ!”で始まる『ALI BOM-BA-YE Ⅰ』とバージョン違いの『ALI BOM-BA-YE Ⅱ』。普段聴き慣れている“イノキ、ボンバイエ!”とは曲調がやや異なるものの、どちらもラテンテイストが強めで疾走感があり、特にB面の『ALI BOM-BA-YE Ⅱ』は時折入るブラスの鳴りがエモーショナルな一曲となっている。