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「彼が自殺したのは2日前です」昨日一緒に飲んだはずなのに…部下を失った海軍少佐の記憶と軍の記録が“一致しない”理由とは

2023/05/23
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 初めて映画『マトリックス』を観た時のような驚きと戸惑いに包まれる異体験。クリス・プラット主演のアクション・スリラー『ターミナル・リスト』(Amazonプライムビデオで配信中)は観客の“記憶”を揺さぶる傑作ドラマだ。

 物語は米海軍特殊部隊ネイビーシールズの隊長ジェームズ・リース少佐率いる精鋭部隊が極秘作戦で敵の待ち伏せに遭い、ほぼ全滅するシーンから始まる。生存者は隊長のリースと信頼の厚い隊員ブーザーの2名のみ。リースは失意のまま帰国し、隊長として作戦失敗の責任を追及される。

 ここからの展開が頗る面白い。リースの記憶と軍の記録が一致しないのだ。軍は最年少の隊員ドニーが錯乱し敵の起爆装置を作動させたと説明する。一方、リースは現地の味方兵士がパニックに陥り起爆させたと言う。観客も約10分前に観た場面を思い出し、

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「あれ? どっちが正しい!?」

 と一瞬、分からなくなる。軍の捜査官が爆発前に記録されていたという音声を流す。

「おい! ドニー、落ち着け」

 確かに隊員やリース本人の声だ。錯乱するドニーの姿も実際に映し出される。リースと同様に観客も混乱し、自分の目で見たものを疑い始める。

©佐々木健一

 混乱は続く。生き残った隊員ブーザーと飲んでいたはずが一瞬で姿が消え、翌日、彼は拳銃自殺したと報せを受ける。

「“昨日”会った時は普通だった」

 すると軍の捜査官は、

「少佐……それはあり得ない。彼が自殺したのは“2日前”です」

 と諭す。果たしてリースが見ている景色や我々観客が目にしている映像はホンモノなのか、それとも幻か。隊員を全て失ったショックからPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症し記憶障害を起こしているのか、はたまた巨大な陰謀に巻き込まれているのか。

 認知症で記憶と現実が曖昧となる様を描いた『ファーザー』と孤独な戦士『ランボー』を掛け合わせたような本作。一時も目が離せないスリリングな超ド級サスペンスである。

INFORMATION

『ターミナル・リスト』
https://www.amazon.co.jp/dp/B09HYSCY1M

「彼が自殺したのは2日前です」昨日一緒に飲んだはずなのに…部下を失った海軍少佐の記憶と軍の記録が“一致しない”理由とは

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