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「食堂を定年退職するまでは書けません」と…丸の内の食堂勤務→50代で小説家に、山口恵以子(65)が描く「食と酒」《100万部突破》

「食堂を定年退職するまでは書けません」と…丸の内の食堂勤務→50代で小説家に、山口恵以子(65)が描く「食と酒」《100万部突破》

小説家・山口恵以子さんインタビュー

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書, ライフスタイル

note

山口 子どもの頃、母がパーティー料理で作っていたガランティーヌというのがありまして、鶏の胸肉を開いてそこにミートローフの中身を詰めて、アルミホイルで包んで蒸すという料理です。いざこれを自分で作ろうとすると、どうしても鶏の胸肉を開いた時に厚いところと薄いところができてしまう。これはよろしくないなと思って、肉を全部きれいに削いで、それを重ねて1枚のシート状にして、それでミートローフの中身をくるむという方法を発明したのは、我ながらあっぱれと思っています。

 見た目がゴージャスな割にそんなに手間もかからないし、日持ちもするので当日バタバタしなくても前の日とかに作っておいても大丈夫で、すごく重宝してます。

『食堂のおばちゃん』(ハルキ文庫)

「お見合いを43回も失敗しているんですから」

――やっぱり食堂で働く前から、お料理には創意工夫されてたんですね。この「食と酒」3シリーズにはいろいろな料理とお酒が出てきますが、描き分けはどうされていますか?

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山口 PHPさんから新作を依頼された時に、担当のОさんは今でも「そこまで言ってません」と否定してるんですが、「食堂のおばちゃん」の柳の下の二匹目のドジョウみたいな小説書いてくれませんか、というようなことを仰って(笑)。山口さんはお見合いを43回も失敗してるんですから、それとくっつけて「お見合い食堂」みたいな感じでどうでしょうということで生まれたのが「婚活食堂」です。

 主人公の玉坂恵はもともと不思議な力があって占い師として活躍していたけれど、不幸な事件で能力を失います。でも、おでん屋さんを10年ほどやっているうちにだんだんとひと様のご縁が見えるようになってきて、その小さな力を頼りに迷える男女の背中を押してあげるという設定になりました。

『婚活食堂』(PHP文芸文庫)

ドラマ化もした「婚活食堂」

――この作品の舞台をおでん屋さんに設定したのはなぜでしょう?

山口 素人の女性がワンオペで料理屋を始めるなら、おでん屋しかないと思ったんです。おでんは要するに、おでん種を買ってきて出汁で煮ちゃえば、お店ですることはほとんどないので(笑)。それでもお店を10年も続けていると、出汁に凝ってみたり、季節料理を出してみたり、いろいろと工夫するようになりますよね。

「婚活食堂」はドラマにもなって、菊池桃子さんという我々世代ドンピシャのアイドルがヒロインを演じてくれています。着物がとってもお似合いで、文庫本のカバーイラストの雰囲気そのままです。それと、フードコーディネーターの方が凄く頑張ってくださったお蔭で、料理がとても美味しそうに撮れてますね。

――第3弾の「ゆうれい居酒屋」の舞台は、新小岩の路地裏にあるカウンター7席の小さなお店です。亡くなった釣り好きの旦那さんが始めた海鮮居酒屋を女将さんが引き継いだわけですが、こちらもワンオペですね。