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批判するのでもなく、愚弄するのでもなく…内田樹がLGBT問題を“ゆるい合意”から始めるべきと考える“納得の理由”

批判するのでもなく、愚弄するのでもなく…内田樹がLGBT問題を“ゆるい合意”から始めるべきと考える“納得の理由”

内田樹インタビュー#2

2023/09/16

source : ライフスタイル出版

genre : ライフ, 社会

note

 LGBTについての法的対応をめぐっては激烈な批判の応酬でネットがずいぶん荒れていましたけれど、頭ごなしに相手を罵倒したり、愚弄したりするより前に、まず多くの人が受け入れてくれるゆるい合意から始めるべきだと思うんです。「セクシュアリティは極めて多様である」という事実認定については、多くの方が同意してくださると思います。だったら、そこから始めるべきだと僕は思います。

 男性にも女性にも、性的指向や性自認のあり方には多様性がある。地上に70億人の人間がいますけれど、極論するなら、この全員がそれぞれ別個のセクシュアリティを持っている。35億人の男性は全員が一つのセクシュアリティに律されており、35億人の女性もまた同一の「女らしく」のうちにあるし、あるべきだという「物語」そのものに無効を宣告する。まずはそこから始めるべきだと思います。

 男と言ってもいろいろあるし、女と言ってもいろいろある。ひとりの人間のなかでだって、男性ジェンダー成分と女性ジェンダーの成分の比率は全員が違う。その成分比率の現れ方もまた状況によって変わる。ある環境では男性ジェンダー化が亢進し、別の環境では女性ジェンダー化が進むということが現にある。それは僕自身の経験からよくわかります。

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 男女二つの性差というのは、あくまで便宜的なものです。前提として、まず「セクシュアリティは多様である(人間の頭数の分だけある)」ということを認めた上で、便宜的・暫定的な制度として男女二つの性に区分するということでいいと思うんです。社会に性幻想の多様性を受け入れるだけの寛容さがあれば、二つの性差で分けても、それほど不自由はないはずなんです。

 二つの性の中間には「グレーゾーン」があるわけですけれども、「グレー」というのは「黒」と「白」が存在しているということが前提になって成り立つ概念です。でも、実は「黒」も「白」も実体としては存在しない。だから、実を言うと「グレー」も存在しないんです、厳密に言えば。でも、それを言うと話がややこしくなるから、「グレーゾーンがある」という話にしておく。そして、「性のグレーゾーン」にいる方たちには、それぞれ個別の事情がおありでしょうから、ケースバイケースで対処してください、あとは現場で適切に対処してください、ということでいいと思うんです。

 自分固有のセクシュアリティはどのような扱いを望んでいるかということは「小さな主語」の話であって、集団や人類一般に拡大することはできませんし、しない方がいい。

アメリカという国をよく見ないと理解が届かない“LGBT”問題

――性をめぐっては、それぞれに固有の事情と要請があるでしょうね。

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