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家族に「病原菌」と呼ばれて“奴隷扱い”…「30年以上虐待され続けた」36歳男性が“夜逃げ”で地獄の生活から抜け出すまで【マンガあり】

『夜逃げ屋日記』著者・宮野シンイチさんインタビュー #2

2023/11/03
note

――『夜逃げ屋日記』が多くの人に届いている証ですね。

宮野 夜逃げ屋の仕事は、刃物を振り回されたり、殴られたりすることもあります。精神的に辛いことも多い。それでも最近は、「夜逃げの現場や座談会で出会った人たちの思いを、ちゃんと漫画にして世の中に届けることが、僕の使命なのかもしれない」と思っています。僕の漫画が、誰かの救いになっていると嬉しいですね。

夜逃げに早い遅いや勝ち負けなどはない

――8年働いた今、夜逃げ屋という仕事をどう捉えていますか。

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宮野 夜逃げは、DVやストーカー被害者の最後の拠り所のひとつなんじゃないかと思っています。夜逃げ屋ではなく、親戚や友人、警察などに頼った方がいいケースもあるはず。でも、頼れる知人がいないとか、警察に相談したのにまともに取り合ってもらえなかったとか、何らかの事情でそれが叶わない人たちがいます。そんな人たちがたどり着くのが、「夜逃げ」という選択肢なんです。

 例えば、70代のおばあちゃんが夜逃げをすると言ったら、「いまさら」と思う人もいるはず。以前の僕もそうでした。でも、夜逃げに遅いとか早いとか、勝ち負けはないんです。依頼者たちが、夜逃げをしたあとの人生を「幸せ」と思えるのなら、きっとその人にとって最善の選択なのだと思います。

宮野さんが作業した夜逃げの現場(写真=宮野さん提供)

自分が思っている以上にDVやストーカーは身近で起こっている

――自分のいる場所が本当に辛かったら、勇気を持って「逃げる」選択もできる。そして夜逃げは、逃げるための選択肢のひとつだと。最後に、文春オンラインの読者に向けてメッセージをいただけますか。

宮野 僕はもともと、「夜逃げ」とは無縁の人間でした。でも夜逃げの現場を通じて、自分が思う以上に、被害者や加害者が身近にいることを知りました。気付いていないだけで、DVやストーカーは身の回りで起こっていることなんです。

 だから「自分には関係ない」と思っている人にこそ、世の中にはこんな世界があることを知ってほしい。そして、もし悩んでいる人が近くにいたら、「夜逃げ」という選択肢があることを教えてあげてほしいです。

『夜逃げ屋日記』の著者・宮野シンイチさん(写真=宮野さん提供)
夜逃げ屋日記

夜逃げ屋日記

宮野 シンイチ

KADOKAWA

2023年6月22日 発売

家族に「病原菌」と呼ばれて“奴隷扱い”…「30年以上虐待され続けた」36歳男性が“夜逃げ”で地獄の生活から抜け出すまで【マンガあり】

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