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認知症の新薬は特効薬になるのか…? 終末期医療に携わる医師が明かした“認知症治療”のリアル

『大往生の作法 在宅医だからわかった人生最終コーナーの歩き方』より #1

2024/03/14
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「理解不能」な行動をとる理由

 認知症の症状は、中核症状と呼ばれる認知機能障害と、周辺症状と呼ばれる精神症状・行動障害とに区分され、後者は認知症の行動・心理症状(BPSD= Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)とも称されます。

 具体的には、前者は記憶障害や場所・日時がわからなくなるといった見当識障害、言語障害などを指し、後者は幻覚・妄想や興奮、異常行動、介護への抵抗といった、いわゆる介護者が困惑する症状を含むものです。認知症について、困ったもの、恥ずかしいものといったイメージが持たれやすいのは、このBPSDが多くの場面でクロースアップされやすいことに起因するためではないかと思います。

 記憶障害のうちでも、つい先ほどのことを忘れてしまう短期記憶障害は、初期の症状として多いものですが、なかでも先ほど言ったことを忘れて「同じことを何度も言う」という症状は、私の90代の父にかぎらず多くの人から聞きます。当事者の家族とすれば非常に面倒に思えますが、これは、相手に伝えたいという気持ちが強い、大切なことを強調して主張したいという意思表示であるとも解釈できます。

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写真はイメージ ©️ponta/イメージマート

会話を印象づける手法

 たとえば老老介護で、一方が認知機能に異常がなく、もう一方に認知症があった場合、何度も同じことを言うからと「うるさい」などと相手にしないと、なおさら同じことを何度も繰り返すという、悪循環に陥る可能性があります。2人きりだと相手のことを根気よく聞くのはしんどいこともありますね。その場合、私がおすすめしているのは「それはビックリ! 驚きですね!」などとインパクトのある言葉や表現を用いて、その会話を印象づけるといった手法です。「何度言っても聞いてもらえない」という気持ちにたいしては、「聞いてもらった」「わかってもらった」と思ってもらうことが解決の糸口になるからです。

 一見「理解不能」な問題行動に見えるBPSDも、共に暮らす家族は頭を悩ませますが、当事者にとっては意味のある行動です。まずはそれを理解しケアに生かすことが大切です。

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