文春オンライン

「あの僧侶はヤクザ上がりなのか!?」恐山の僧侶を“テレビ出演”から遠ざけた「隠し撮り事件」の全貌

『苦しくて切ないすべての人たちへ』より #2

2024/04/22

genre : ライフ, 社会

note

「いったいどういうつもりで永平寺に来たんだ!」と、立ち上がりかけた新人僧に、上から大声で怒鳴ったら、その私の背後右から、建設会社の課長を退職して入門した小柄な同輩が、「ここはなあ、ススキノやカブキチョウじゃねえんだぞっ!」。

 この番組を見た大抵の人は、このセリフも私が言ったと信じているが、誓って私ではない。私はほぼ下戸で、「ススキノ」は全く知らず、「カブキチョウ」も新宿の怖いところ、くらいの認識しかなかった。

テレビのせいで全国の僧侶たちから抗議殺到

 後に聞いたら、番組のこのシーンが流れると、当時の永平寺の全外線電話が鳴り響き、全国の曹洞宗住職や僧侶の人たちから、怒声さながらの抗議が延々と続いたという。

ADVERTISEMENT

「何だ、あの背の高い若僧は!?」

「ヤクザ上がりなのか!?」

「本山でカブキチョウとは何だ!!」

「あんなヤツ、昔は一人もいなかった!」

 翌朝は大変だった。永平寺にテレビは無いから、何が起こったか知る由もない。一夜明けたら、先輩から、

「直哉! お前、下山だ!」

「どうするつもりだ? アレ」

 老師方から、

「直哉和尚、困ったのお……」

「もう少し、やりようがのお……」

 それまで師匠と親しか知らなかった私の出家が親戚中にバレて、実家の電話も一晩中鳴り続けたという。

「ナオヤちゃんそっくりのお坊さんが、テレビに出てる!」

「何がどうしたの!?」

「出家、なんで許したの!?」

 当時の永平寺にまともな広報担当者がいなかったので、この映像を含め、ほとんど無制限に撮影して、そのまま放送できたのである。

 その後数年して、マスコミ各位にその名が知られるほど「厳格極まりない」広報担当者になった私は、知り合いの某公共放送局員に、さる筋から入手したビデオを見せて、

「これ、どこから撮ってるの?」

「少なくとも、100メートル以上は離れているでしょうねえ」

「でも、音は?」

「すごくデカい、高感度の集音マイクがあるんです」

 この番組はビデオになって販売され、さらにDVD化した。以来、10年以上、永平寺入門志願者の「事前教育」ビデオの定番となった。