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連載春日太一の木曜邦画劇場

見直して気づいた名作オマージュ。時代劇への興味の原点かもしれない―春日太一の木曜邦画劇場

『キン肉マン 決戦!! 七人の超人VS宇宙野武士』

2024/04/23
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 ゆでたまご原作のマンガ『キン肉マン』は「週刊少年ジャンプ」で連載され、テレビアニメにもなった。

 筆者はその直撃世代で、超人・キン肉マンが強敵たちと繰り広げる奇想天外なプロレス形式の激闘に胸を躍らせたものだ。

『キン肉マン』は二〇一一年にウェブサイトで続編が連載され、そして今年はそのアニメ化も決定している。先日はYouTubeにてプロモーションビデオが公開。新たな声優陣の声とともに各超人が動く姿を観ているうちに、童心を思い出して熱いものがこみ上げてきた。

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 そこで、折角なので久しぶりにかつてのアニメを観てみることにした。今回取り上げる『キン肉マン 決戦!! 七人の超人VS宇宙野武士』は、そのスペシャル版だ。放送時以来、四十年ぶりの鑑賞になる。

1984年(74分)/東映動画/動画配信サービス(有料)にて視聴可能

 当時は気づかなかったが、今なら分かる。タイトルからして、完全に『七人の侍』をオマージュしたものだと。

 当時でも子どもたちの大半は『七人の侍』を知らないし、「野武士」という言葉も、観客の主なターゲットたる子どもたちには理解できない(おそらく読むのも難しい)。それを前面に出してくるところに、当時の勢いを感じる。ただ子どもたちからすれば正義超人たちがチームを結成しての激闘を観られれば満足だったし、「うちゅうのぶし」という響きも「よく分からないけど、なんだか強そう」と、気にならなかった。

 そして改めて観てみると、内容も思った以上に『七人の侍』だった。舞台は地球によく似たラッカ星(せい)。騎馬武者団「宇宙野武士」の襲撃で壊滅寸前にある星を救うため、長老の命を受けたビーンズマンが地球の正義超人たちに助けを求めにやってくる。そしてキン肉マンたち七人の超人がこれに応じることになった。――まさに、そのままである。

 設定だけではない。前半が腕試しをしながらの仲間集めで、後半は集まった面々と野武士との死闘。さらに、一人だけラッカ星に残るというラスト。全体の構成もほぼ一致していたりする。しかも、腕試しの際に最も声をかけてもらいたがっている主人公が一人だけ不合格だったりと、各超人のキャラクターが『七人の侍』それぞれから上手く振り分けられているのだ。

 子どもの頃、父親がよく『七人の侍』の面白さを語ってくれて、それが時代劇に興味をもつ入り口になった。なぜ父がそのような話をしたのか疑問だったが、ひょっとすると本作がキッカケだったのかもしれない気がしている。

 そう考えると、筆者が「時代劇研究家」になる原点がここにあったのかと思えてきた。

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