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「頭のいい両親の子供なら頭はいい」は大間違い…遺伝学の研究者が語る「遺伝と子供の発達の真実」

source : 提携メディア

genre : ライフ, サイエンス, 社会, 教育

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しかし、メディアはこのフレーズが大好きで、ニュースでもよく目にします。アルコール使用障害の遺伝子、うつ病の遺伝子、乳がんの遺伝子、攻撃性の遺伝子などなど。ところが、真実はもっと複雑なのです。

人間の遺伝子は約2万個しかなく、そのほとんどが目や耳、腕、動脈といったものを担当しています。人間の生態や行動様式のすべてに1個ずつ遺伝子が存在したとすれば、あっという間に数が足りなくなってしまいます。

ショウジョウバエでさえも約1万4000の遺伝子を持っていますが、人間の子どもはショウジョウバエよりもかなり複雑であることから、遺伝子の働きには何かもっと別のことが関係していると考えてよいでしょう。

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「ある特定の行動をさせる遺伝子」は存在しない

1つの遺伝子からもたらされる影響は大きいと、あなたも学生時代に生物の授業で習ったと思います(「メンデルの法則」などを覚えていますか?)。

しかし、非常にまれな単一遺伝子疾患(訳註:ある1つの遺伝子の異常によって発症する病気。メンデル遺伝病ともいわれる)を持たない多くの人にとって、遺伝子が個々の人生にどのような影響を及ぼしているかについては、とても複雑でわかりにくいものです。

社交性の遺伝子、恐怖心の遺伝子、スーパーのレジ待ちに耐えられずかんしゃくを起こしてしまう遺伝子といったものはありません。

一方、知性・思考力・理解力から個性・人格に至るまで、私たちの複雑に入り組んだ反応の仕方や行動については、おそらく何百、何千もの遺伝子の影響を受けています。

例えば、あなたのお子さんの心配や不安(あるいは衝動性、恐怖心など)に対する遺伝的な傾向は、心配や不安に影響を与える何千もの遺伝子のうち、どの「遺伝子型」を引き継いだかによって決まっているといえます。

遺伝子型にはリスクを取ろうとするものもあれば、リスクを避けようとするものもあります。そして、あなたの子どもがどんな行動特性を持つかは、リスクをおかそうとする遺伝子と、自分を守ろうとする遺伝子を、どれだけ受け継いでいるかで決まるのです。