文春オンライン

物語は予想外の展開へ…『悪は存在しない』濵口竜介監督「映画を観て戸惑うのはそんなに悪い経験ではありません」<ヴェネツィアで銀獅子賞受賞>

映画『悪は存在しない』濵口竜介監督インタビュー

2024/04/27

source : 週刊文春CINEMA 2024春号

genre : エンタメ, 映画

note

濵口 現実にも私たちはどちらかに与(くみ)するのではなく、とりわけ現代においては両方の要素をもって生きていると思います。誰もが対立ではなく並立していて、その様子をありのままに捉えたかったんです。

映画を観て戸惑う経験も楽しんでほしい

――まさしく主人公がグランピング施設の説明会の場で「要はバランスだ」と言いますね。ただ、そういう認識のもとにある種の相互理解に行き着くのかと思いきや、さらに予想外の展開を見せる。

 ここに僕は『悪は存在しない』というタイトルとは裏腹に、濱口監督の悪意を感じたのですが(笑)。

ADVERTISEMENT

濵口 僕が観客だったとして、彼らが相互理解にたどり着いた、というエンディングが訪れたら、きっと納得しない。

濵口竜介監督 ©鈴木七絵/文藝春秋

 だから僕としては納得できる展開というか、これこそが必然、と受け止めるエンディングに落ち着いたという感じなんです。

 どう感じたらいいのか戸惑う人もいるでしょうが、映画を観て戸惑うというのは、そんなに悪い経験ではありません。そこも楽しんでくださいと僕自身は言いたいですね。

 

『悪は存在しない』
INTRODUCTION
この作品は『ドライブ・マイ・カー』(21年)でタッグを組んだ濱⼝⻯介監督とシンガーソングライター⽯橋英⼦による共同プロジェクトとして誕生した。石橋氏がライブパフォーマンス用の映像を濱口監督にオファーしたことをきっかけに、その過程で制作されたという。

 本作は、第80回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞し、濱口監督は、これで世界三大映画祭制覇という快挙を成し遂げた。

STORY
自然豊かな高原に位置する長野県、水挽町。東京からも近く、移住者は増加傾向でごく緩やかに発展し続けるこの町で、巧とその娘・花は自然に寄り添い慎ましやかに生活していた。

 ある時、彼らの家の近くにグランピング施設を作る計画が持ち上がる。それは、コロナ禍の煽りを受けた芸能事務所が政府からの補助金を得て企画されたものだった。しかし、それは森の環境や町の水源を汚しかねない杜撰な計画であると分かり、町内は動揺。その余波は巧たちの生活にも及んでいく。

STAFF & CAST
監督・脚本:濱口竜介/音楽:石橋英子/出演:大美賀均、西川玲、小坂竜士、渋谷采郁/2024年/日本/106分/配給:Incline/4月26日公開

物語は予想外の展開へ…『悪は存在しない』濵口竜介監督「映画を観て戸惑うのはそんなに悪い経験ではありません」<ヴェネツィアで銀獅子賞受賞>

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

週刊文春CINEMAをフォロー