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「屋台でシャブ売ってるくらい普通やっちゅうねん」かつて覚醒剤が“普通に買えた”ことも…大阪市のディープシティ「西成」には何がある?

『にっぽんダークサイド見聞録』より #2

2024/04/27

genre : ライフ, 社会

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 取材を始めた頃は、一泊500円というおそろしく安い宿を中心に泊まって活動していた。一週間泊まって3500円だったので、貧乏人にはとても助かった。

 当時、僕が一番長く泊まっていた500円の宿は、部屋を上下に二分割されていた。「502上」みたいな部屋番号だった。

 上の部屋で泊まる人は、ハシゴを登らないと部屋に入ることができない。当たり前だが天井は低く、部屋の中では立つことはできなかった。

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 冷暖房はあったが、館をまるごと冷やしたり、温めたりするので、自分の部屋では調整ができない。冷気を部屋に引き入れるため、ドアを開けっ放しにしていると、「おえぇええ!!」とゲロを吐く声や、トイレやタバコの臭いが漂ってきた。

 最低な環境なのになんかワクワクしたのを覚えている。

 ちなみに今でもドヤに泊まるが、ホテル予約サイト「じゃらん」で予約することが多い。一泊1500~3000円くらいの宿で連泊する。部屋やサービスに問題はないのだが、深夜1時くらいの門限で施錠してしまう宿もあるので注意が必要だ。

 飲み会で遅くなって帰ってきたら、中に入れなくなっていたことがあった。仕方なく、近くのネットカフェに移動して、朝のドアが開く時間まで寝た。まことに馬鹿馬鹿しい出費だ。

「昔はドヤのカウンターでシャブ売ってたんやで」

 二分割された狭い部屋の窓から外を見ると、路上に立つ怪しげな人たちが見えた。覚醒剤などの違法薬物を販売している売人だった。まだ少年に見える売人もいた。見つからないようにコソコソしているという感じではなく、堂々と商売をしていた。

 当時は、路上にはたくさんの屋台が出ていた。手作りで作られたボロい屋台で、売っているのは安酒と、チーズ、缶詰などの保存がきく商品だけだった。実はほとんどの屋台が覚醒剤を販売していた。問題になって全部取り壊されてしまった。

「屋台でシャブ売ってるくらい普通やっちゅうねん。昔はドヤのカウンターでシャブ売ってたんやで」と話を聞いたオッサンはなぜか得意げに言っていた。真偽のほどは分からなかったが、覚醒剤が非常に近くにあるのは事実だった。

 西成にあるコンビニのトイレには「便器に注射器を捨てないで」という注意書きが書いてあったし、ごみ捨て場のポスターには「覚醒剤1パケ0.03g」と、売人が連絡先を書いていた。

 今はここまであけっぴろげに、シャブを売る人は見られなくなった。かわりに、「居酒屋で覚醒剤を売るな!」という黄色と緑で書かれた怪しげな看板がいくつも出ている。なんとも不穏な雰囲気を醸し出している。

 話を聞くと、貸した物件で覚醒剤を売られたオーナーが反撃で看板を出したのだそうだ。

にっぽんダークサイド見聞録 (わたしの旅ブックス)

にっぽんダークサイド見聞録 (わたしの旅ブックス)

村田 らむ

産業編集センター

2024年4月15日 発売

「屋台でシャブ売ってるくらい普通やっちゅうねん」かつて覚醒剤が“普通に買えた”ことも…大阪市のディープシティ「西成」には何がある?

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