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ユダヤ人の少年がカトリック教会に連れ去られ…佐藤優が「家族愛と信仰の間」を“皮膚感覚”で理解した理由<19世紀の実話を映画化>

映画『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』

2024/04/26

source : 週刊文春CINEMA 2024春号

genre : エンタメ, 映画

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 この時期の教皇は、ピウス9世だった。ピウス9世の在位期間は、1846年6月から78年2月の31年7カ月にも及んだ。

 その間に第1バチカン公会議(1869~70年)を行い教皇の不可謬性の教義(教義と道徳に関する教皇の発言は過ちから免れる)、謬説表(間違った学説や思想の一覧表)の発表などをして、教会の体制強化を図った。

1871年、ピウス9世は教皇領が廃止されると自らが「バチカンの囚人」であると宣言。生涯バチカンから一歩も外へ出ることはなかった ©IBC MOVIE / KAVAC FILM / AD VITAM PRODUCTION / MATCH FACTORY PRODUCTIONS (2023)

 要はカトリック教会が弱体化したので、引き締めを強化したのだ。その文脈で、見逃すことも可能だったエドガルドの事案に厳しくあたらざるを得なくなったのだと思う。

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臨終間際の母に洗礼を授けようとするが…

 神父となったエドガルドは、キリスト教的世界観を身体化してしまった。イタリアが統一され、社会がカトリック教会の軛(くびき)から解放され、帰宅が可能になっても教会に留まる。

©IBC MOVIE / KAVAC FILM / AD VITAM PRODUCTION / MATCH FACTORY PRODUCTIONS (2023)

 さらに臨終間際の母親にも洗礼を授けようとする。しかし、母親は「ユダヤ教徒として死にたい」とエドガルドの提案を拒否する。