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「震災前はどんな景色だったか思い出せない」行動制限無しの「常磐線復旧区間」沿線のリアル

2024/05/02

genre : ライフ, 歴史, , 社会

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 平成23(2011)年3月の東日本大震災で、太平洋沿岸を走っていた常磐線は津波や原発事故によって一部区間が壊滅的な被害を受け、特に福島県内の区間は長期不通を余儀なくされた。最後まで不通区間として残っていた福島県内の富岡~浪江間20.8kmが旅客営業運転を再開したのは令和2(2020)年3月で、震災から9年もの歳月が流れていた。

 ただ、せっかく運転再開したにもかかわらず、ちょうどその頃から新型コロナウイルスの流行地域が急速に拡大し、旅行者が復旧区間を気軽に訪れにくい世の中になってしまった。

 それに、列車が走り始めた後も、福島第一原発に近い駅周辺では帰還困難区域のまま立ち入り制限が続き、昨年(令和5年)4月にようやく避難指示が解除されたエリアもある。新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行して、3年余り続いたコロナ禍が一つの区切りを迎えたのは、それからさらに1ヵ月後の昨年5月だった。

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 再び四季がめぐり、震災から14年目にして初めて、常磐線の復旧区間とその駅周辺をマスク無し、行動制限なしで気兼ねなく旅できる春を迎えた。今年3月のJRダイヤ改正直後、いわき駅から常磐線の普通電車に乗って現地を訪ねた。

乗車直前の地震発生で遅れて出発

 東京の日暮里で東北本線から東へ分岐し、主に太平洋沿岸に近い地域を北上して仙台へと至る常磐線は、現在、福島県のいわきを境に運転系統が緩やかに分かれている。

 国鉄以来の伝統特急「ひたち」は1日15往復あるが、品川に発着する15往復のうち、いわき以北の区間へ直通するのは3往復に過ぎない。いわきから北へ向かう普通列車も、半数以上がいわき始発である。

常磐線を走る特急「ひたち」(上野)

 朝7時過ぎ、日曜日で通勤・通学客の姿が少ないいわき駅3番ホームから、5両編成の普通電車原ノ町行きに乗り込む。

 4年前に復旧した富岡~浪江間を走る普通列車は、いわき~原ノ町間に1日11往復。いわき発の下り列車は8時前と17時以降の朝夕に4本ずつが集中しているが、日曜の車内は閑散としている。朝早いせいか、遠来からの旅行者らしい姿も見られない。

いわき駅舎。東日本大震災の3年半前(平成19年10月)にオープンした
いわき駅に掲げられた観光客向けの横断幕

 7時11分発の原ノ町行きは、22分も遅れていわきを発車した。早朝に福島県内で観測された地震の影響とのこと。泊まっていたホテルも大きく揺れたが、駅構内や車内では特段の混乱は見られず、平常運行のような雰囲気が流れている。