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イスラエルの苛烈な反撃はなぜ止まない? 池上彰&佐藤優が徹底解説「同情されて死に絶えるより、全世界を敵に回しても…」

2024/05/03
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ハマスとイスラエルの軍事衝突は、いつ終わるのか——。4月30日、イスラエルのネタニヤフ首相が戦闘休止合意の有無に関わらず、ガザ地区南部への攻撃を開始すると発表。イスラエルの強硬な姿勢に対して、各国から抗議の声が挙がっている。ジャーナリストの池上彰氏と、作家・元外務省主任分析官の佐藤優氏が、ハマスとイスラエルの内在的論理を読み解いた。

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なぜイスラエルは強硬なのか

 池上 「それにしてもなぜイスラエルはここまで強硬なのか」「なぜ停戦や和平に向かわないのか」と多くの日本人が疑問に感じています。

 イスラエル人は「これはイスラエルに対する攻撃ではない。ユダヤ人絶滅を図る攻撃だ」と受けとめているようです。「ユダヤ人の存続をかけた戦い」とみなしているからこそ、反撃が過剰になりがちになる。

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 佐藤 「我々は全世界に同情されながら死に絶えるよりも、全世界を敵に回してでも生き残るために戦う」が、ホロコーストを経験したイスラエル国民の総意です。

 イスラエルは、国家としての「自衛権」というより、ユダヤ人とイスラエル国家の「生存権」の行使としてハマス掃討作戦を展開しています。そう対応せざるを得ないのは、ハマスの方が、領土や利権をめぐる争いではなく、「ユダヤ人であるがゆえに地上から消滅させる」という「属性排除」の論理で動いているからです。ナチスと同じ論理で、イスラエルの乳児が意図的に殺害されているのがその証しです。ガザの病院での戦闘で乳児が巻き込まれたという話とは明らかに異なります。

佐藤優氏 ©文藝春秋

 池上 イスラエル政府はその点をとくに強調して、「ハマスの行為は人道に対する罪だと知ってほしい」と訴えていますね。

 佐藤 デーリー・テレグラフ紙(10月12日付)はこう伝えています。

〈イスラエル政府は、ハマスのテロリストに殺害された乳児の遺体と思われる生々しい写真を公開した。小さな遺体袋の中に、ベビー服とおむつを着せられたままの血まみれの乳児が横たわっている。乳児の顔はぼかされている。白いオーバーオールを着た二人のイスラエル人法医学者の手袋をはめた手が背景に見える。「これは、これまで掲載した中で最も見るに堪えない画像です。この文章を書いているとき、私たちは震えています」「私たちは掲載するかどうか何度も迷いましたが、皆さん一人ひとりに知っていただく必要がある。これは起きたことです」とイスラエル政府外務省はX(旧ツイッター)に投稿した。/イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はさらに踏み込んで、乳児の黒焦げの遺体を写した写真を数枚公開した。ネタニヤフ氏は「ハマスの怪物によって殺され、焼かれた乳児の恐ろしい写真だ。ハマスは非人間的だ。ハマスはISIS(『イスラム国』)と同じだ」と〉

イスラエルのネタニヤフ首相 ©時事通信社