運営費交付金は教育研究活動の基盤となる国からの交付金。国立大学が法人化された2004年度は国立大学全体で1兆2415億円あったが、約10年にわたって毎年1%程度減額され、2024年度は1兆784億円となった。東京大学も2005年度の955億円から、2022年度は799億円にまで減少している。
一方で、授業料などの収益は年間165億円に過ぎない。仮に2割引き上げても、運営費交付金の減額幅とは桁が違っていて、財政が好転するわけではない。北関東出身の4年生の男子学生は、大学が過去に発信してきたことと矛盾すると指摘する。
「運営費交付金が削減される中で、2010年に当時の理事が、授業料の値上げで予算を増やそうとしても焼け石に水なので、値上げは考えていないと発言をしています。もしも今回伝え聞くような理由で値上げをするのであれば、過去の発言との整合性がありません。
それに、法人化以降の経営失敗の結果として値上げをするのであれば、なぜ学生に責任を転嫁するのでしょうか。大学への公的支出を渋ってきた国にも問題があり、そのしわ寄せが学生に来ることに対しては憤りを感じます」
また、この男子学生は、現在の藤井輝夫総長が盛んに発言している「ダイバーシティ&インクルージョンの実現」にも、授業料値上げは逆行していると指摘する。
「値上げは世帯所得にゆとりがある家庭の子どもだけが進学できる状態を、より固定化する方向に作用するでしょう。また、東京大学は女子学生の比率が2割と低いことが指摘されています。2割の内訳は多くが首都圏の高校出身者で、その中でさらにマイノリティーとして存在しているのが、地方出身の女子学生です。
この人たちの東京大学への進学を阻んでいるのは、東京の高い生活費であり、さらに言えば女性の教育に対する理解のなさです。授業料値上げはさらに進学を難しくするでしょう。これが就任以来ダイバーシティ&インクルージョンの旗印のもとでジェンダー比の改善をうたってきた、藤井総長体制でやることなのでしょうか。大きな矛盾を感じています」
「総長対話」の開催方法にも疑問が噴出
学生による反対集会や、それに伴う報道が増えていく中で、6月10日には初めて藤井総長が声明を出した。「授業料値上げに関する報道について」と題した文章には、次のような内容が書かれていた。