「無抵抗な女性の首を刃物で切り裂いた犯行は残忍で刑事責任は重大で、極刑で臨むことを十分考慮しなければならない事案である。しかし……」
口封じのために2人の無実の女性を殺害した、24歳の青年。父親に虐待された過去、恋人は医師に騙された末に亡くなったという証言は、法廷でどんな印象を与えたのか? 我が子を無惨に殺された親、学生時代ひどいイジメに遭った者などが仕返しを果たした国内外の事件を取り上げた新刊『世界で起きた戦慄の復讐劇35』(鉄人社)から一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)
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「恋人を騙したのがクリニックの院長だった」
強盗殺人罪で起訴された高橋被告の裁判は2005年6月23日、静岡地裁で始まった。検察は被告人がIさんに現金の保管場所を聞いた後で殺害に及んでいることから、金銭に困ったうえでの計画的な犯行と主張。対して被告弁護人は、流しの強盗に見せかけて捜査を混乱させようとしただけで、真の動機は院長への復讐であると反論した。
両者の意見が対立するなか、被告人尋問で高橋は独特の価値観を披露する。
「(Aさんと)命を奪うという約束をしたなら、しなければなりません。自分が死のうと、相手が死のうと。自分も含めて全ての人間が無価値で、常識よりも自分の信念を取る。こうした考えを受け入れつつも、間違っている部分があると指摘してくれたのがAさんだった。そんな彼女を騙したのがクリニックの院長だった」
こうした供述を受け、裁判所は院長を証人として法廷に呼ぶ。高橋被告の激しい憎悪を考慮し、別室からビデオリンク方式で答弁に臨んだ院長は述べる。Aさんは私の治療を喜んでくれた。それが突然恨みを持たれるとは驚きでしかない。恐怖感は今もある──。さらには、自分が行う代替治療である「サウンドエナジー療法」についても次のとおり説明した。