――ご家族の反応は。

 妻からは「もうやめて。10年かけて元に戻してくれ」と言われました(笑)。もともと僕の容姿を気にするタイプではないんですけどね。ただ、僕が誹謗中傷に腹を立ててやっていることだから、止めはしませんが。

――中傷してきた相手の反応は?

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 「頭の上にもずくを載せている」みたいなことを言っていますよ。

――ちなみに、どこかで髪のことを気にはしていたのですか。

 父方が代々、薄かったですからね。その遺伝子がどうしても残るのは覚悟してましたから。それでも20代で薄くなりはじめたときは、イヤでしたね。

 まぁ、年を重ねるにしたがって気にしなくなりましたね。でも、他人から悪意をもって「ハゲ」としつこくバカにされるのは許せないですよ。

増毛後は快適な生活を送っているという

――持病のベーチェット病も、誹謗中傷のストレスで悪化したそうですね。

 ベーチェット病は原因不明の難病で、ストレスや疲労が引き金になって発作が起きるんです。コロナ禍での激務と、それに続く誹謗中傷で、動けなくなるほど悪化してしまって。ひどい中傷を受けると、てきめんに症状が出ます。これもあって、まわりに心配をかけないように、病気のことも公表しているんです。

「毎日20件くらいは来ますね」今も続く誹謗中傷被害

――いまも中傷してくる人はいますか。

 います、います。毎日20件くらいは来ますね。ただ、相手も賢くなってきて、開示請求対策をしたうえで誹謗中傷をするようになりました。電話番号を登録しなかったり、海外の特殊なメールサーバーを使ったり。開示の成功率は、最初の頃は100%でしたが、いまは5割くらいに落ちています。モグラ叩きですよ。

――ずっと訴訟していくのも大変ですよね。

 個人で戦い続けるのには限界があります。この問題の根本的な解決は、法改正しかないと思います。SNSプラットフォーム事業者に、もっと厳しい規制を課すべきです。匿名でのアカウント作成を制限するとか、一度凍結された人が簡単に別アカウントを作れないようにするとか。そのためのロビー活動も、政治家の先生にお願いしたりしています。

 

感謝されなくてもいい。でも侮辱で返される覚えはない

――一連の経験を通じて、社会に最も伝えたいことはなんでしょうか。

 僕ら医療従事者は、誰もが見るのがつらかった感染症の現実に、最初から向き合ってきました。だからといって、べつに感謝されなくてもいい。でも、侮辱で返される覚えはない。こんなことが続けば、医療に携わる人たちすべてがやる気をなくしてしまいます。

 医療に対する敬意が失われ、患者さんが「お客様」になってしまっているところもある。その歪みが、コロナ禍で一気に噴出したのだと思います。医者と患者は対等な立場で、一緒に病気に立ち向かうパートナーであるべきです。その当たり前の関係を、もう一度取り戻さなければならない。僕のこの戦いは、そのための問題提起でもあるんです。

撮影=石川啓次/文藝春秋

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