小泉 トランプ政権はこのうちの、かなりの項目を呑んでしまおうとしていたように思うんですよ。少なくとも(1)と(2)については、「ウクライナの領土奪還は困難だ」「NATO加盟は現実的ではない」と早くから表明していた。(3)以降には明確には踏み込まないまでも、ウクライナで大統領選(戦時下で戒厳令が出ているため、実施が延期されている)を行うべきだという表現で、やんわりとロシアと歩調を合わせるような素振りも見せていましたね。極めつけは、3月にウクライナに対する軍事・情報支援を一時的に停止したことです。
「ウクライナにごちゃごちゃ言わせず、米露が決めた条件で諦めろ」というのがトランプの考えていた早期停戦論だったのではないでしょうか。だからうるさいことを言ってきそうな欧州諸国も停戦交渉には関与させない、と言い続けていました。
もともとバイデン政権を批判するための発言だった
黒井 私は、トランプには、最初からそれほど精緻な停戦プランがあったわけではないんだと思います。もともとはバイデン批判で思いついたのでしょう。彼は2024年の大統領選でとにかく自分はバイデンより優れているとして、バイデンの政策の批判に“全振り”していました。トランプはほぼ全分野で、自分の目指す政策を訴えるというより、バイデン、民主党、リベラル、グローバリズムが「全部ダメだ」ということだけ声高に訴えています。
小泉 当時はとにかく大統領選でバイデン、ハリスに勝つというのが至上命題でしたし。
黒井 トランプはバイデン政権が巨額のウクライナ支援をしていたことを、米国民にとって大きな損失だと主張しています。米国ファーストなので、米国政府の資金の持ち出しになる海外の紛争への介入には基本的に反対なのですが、当然ながらウクライナへの支援などは考えていなかったのでしょう。シンプルに「損だから嫌」という信念です。
ただ、それだけでなく、バイデン批判の延長で「自分が大統領になれば、1日で戦争を終わらせる」と発言しました。深い考えがあったわけではなく、ウケ狙いのノリの要素が大きいと私は見ていますが、「ロシアも苦しいはずだから、制裁解除をチラつかせれば取引に乗ってくる」と考えたようです。
小泉 そこが、相手も自分と同じように考えるはずだという思い込みなんでしょうね。
