トランプ側近の取り込み工作
黒井 トランプの停戦仲介に対しても、プーチンはトランプを褒めまくって、その停戦仲介に前向きなフリをしつつ、実質的なウクライナの降伏のような条件を示して、「停戦に否定的なのはゼレンシキー側だ」とのストーリーをトランプに吹き込もうとします。
ロシアはトランプ政権の意思決定の非合理性・非組織性を熟知しています。トランプは米国政府の強力な政府機関の優秀なスタッフの助言ではなく、トランプへの忠誠心が高い個人的な側近の意見を聞きます。そこでロシアがトランプ陣営取り込み工作の標的に目をつけたのが、トランプの昔からの盟友でゴルフ仲間のスティーブ・ウィトコフでした。彼は弁護士の不動産業者で外交・安全保障の素人ですが、ロシア系ユダヤ人で、トランプに中東担当特使に任命されます。
小泉 本来は中東担当特使のはずのこのウィトコフ特使が、その後の米露交渉の担当になり、どんどん迷走しますね。
黒井 ウィトコフは当初、本来の担当である中東問題でかなりやる気を見せています。イスラエルとハマスの人質解放交渉の根回しなど中東で精力的に動き回るのですが、そんななか、ロシア政府系投資ファンド「ロシア直接投資基金」のキリル・ドミトリエフ代表から接触を受けます。
彼は投資ビジネスで特にサウジアラビアと深い関係を持つ人物ですが、プーチンの娘と親しく、まだ49歳ながらプーチン政権できわめて強い影響力を持っています。
少年の頃から米国で教育を受け、米国金融界でも仕事をした経験から、米国経済界に太いパイプを持っていて、トランプ第1次政権時の大統領選後に問題化したトランプ陣営の不透明なロシア関係、いわゆるロシア・ゲート疑惑(※2)でも名前が挙がっていましたし、第1次トランプ政権で外交安保政策を主導したトランプ娘婿のジャレッド・クシュナー上級顧問にも深く食い込んでいたというすご腕です。
そのドミトリエフからの接触を受け、ウィトコフはモスクワを訪問します。招待の名目は米露の囚人交換の交渉という話だったのですが、モスクワに着いたウィトコフはいきなりプーチンと3時間半も会談します。そこでプーチンから、いかにロシアが平和を希望しているかを聞かされ、それを阻むゼレンシキーの悪口を吹き込まれます。ウィトコフはすっかり信じ込まされ、それをトランプに報告。トランプは急にゼレンシキーの悪口を言い始めたという展開になります。プーチンとすれば、狙いどおりの展開です。
小泉 その後、停戦仲介はケロッグが対ウクライナ交渉担当、ウィトコフが対ロシア交渉担当となりますが、ウィトコフはすっかりプーチンの代弁者のようになってしまいます。
