プーチンには最初からその気がなかった
黒井 先ほど小泉さんが詳しく説明されたように、トランプはロシアの言い分のほうを重視する姿勢で停戦仲介を続けますが、結局、プーチンが停戦に最後まで応じないことで事実上、断念します。ただ、あの時の仲介でのトランプ案はたしかにロシアに有利ではあるのですが、ロシア側からするとそうではない。プーチンは一貫してウクライナの非ナチ化と非軍事化を要求していますから、トランプの仲介はあれでもロシア側からすれば許容範囲外になります。何せプーチン本人が自分の言葉で侵攻初日に言っちゃっていますので、それがロシア側の譲れない線になるわけです。
なお、このトランプの停戦仲介の間、欧州主要国もトランプ懐柔のために停戦交渉を重視する姿勢を表向きには示し、停戦条件の中身を議論するなどしていたため、内外のメディアでは停戦交渉が進捗しているかのような報道が多かったのですが、プーチンにその気が最初からない以上、停戦などもともとただの空論だったと、私は考えています。実際のところ、表向き米国の停戦仲介とされた期間にあったことは、リアルには停戦交渉では全くなく、トランプの機嫌の取り合いだったと思うのです。
結局、トランプは最後にはプーチンに停戦する気がないことに気づいて、ほとんど匙(さじ)を投げますが、それまでの間、トランプは一貫してプーチンを立てるような発言を繰り返してきました。
トランプのプーチン重視は第1次トランプ政権でも顕著で、その理由にはさまざまな推測がありますが、本当のことはトランプが言わないので不明ですね。
小泉 そこは不明ですよね。一部ではモスクワでセックス・スキャンダルを起こして弱みを握られたとかの説もありますが、エビデンスがない話ですし、トランプはそんなことではおそらく動じないので、それはさすがに陰謀論じゃないかと思いますね。
黒井 謎です。わかりません。ただ、トランプが少なくともこれまではプーチン重視の態度だったことは事実であり、それがウクライナの今後に暗い影を落としています。停戦仲介の失敗を経て、自分の失敗とは認めたくないトランプは、不首尾はプーチンのせいだとしてプーチンへの不満を語るようになっていますが、このままウクライナ支援に舵を切るのか、まだわかりません。
トランプはバイデンの無償のウクライナ軍事支援をずっと批判してきましたので、無償の軍事支援には否定的ですが、欧州のNATO主要国が米国の防衛企業に代金を支払うかたちでの武器売却なら、米国が損をしないということで容認する方向です。他にもウクライナと米国企業と共同での武器弾薬製造のような形式のアイデアもあるようです。ただ、ウクライナも欧州友好国も経済的な余裕はなく、さらに欧州ではプーチン支持の極右が台頭していますので、ウクライナ側は苦しい局面が続きそうです。
※1 マイダン革命 2014年2月、ウクライナの首都キーウの独立広場(マイダン・ネザレズノスチ)で起きた抗議運動、政変。親ロシア派のヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領(当時)が、EUとの連合協定を破棄したことに反発する市民・学生による抗議が発端。抗議運動の拡大を経てヤヌコーヴィチ大統領は失脚、ロシアに亡命した。一方、マイダン革命の混乱に乗じて、ロシアはクリミア半島に軍を進駐させてクリミアを併合した。
※2 ロシア・ゲート疑惑 大統領選挙を1カ月後に控えた2016年10月、ロシアがトランプ政権の誕生を狙って、民主党のクリントン陣営にサイバー攻撃を仕掛けて大統領選挙に干渉したとされる疑惑。選挙期間中にトランプ陣営とロシアが接触していたことが判明し、共謀疑惑へと発展した。
