アメリカの動きに関連して、イギリス・シンガポール・台湾・香港・韓国などの各政府も金融制裁や強制捜査がおこなわれている。なかでも台湾では、同国内に9社ある関連企業の多くがマネロン容疑で家宅捜索を受け25人が逮捕、不動産や高級車(ロールスロイス、フェラーリ、ランボルギーニほか)・銀行口座など総額45億台湾ドル(約249億円)が押収された。

シアヌークビルにある太子集団傘下企業の豪華ホテルの外観。なお建物右手の地下には高級サウナ(中国版ソープランド)が併設され、799US$で日本人女性によるサービスも提供されている。筆者撮影。

 太子集団は中国系の企業だが、中華暗黒世界における中台双方の(ヘイ)(シャー)(フィ)(反社業界)は密接に連携している。カンボジアの中華系裏社会は台湾マフィアも古くから勢力を築いてきた。これらの事実が垣間見える数字だ。

陳志はいったい何者なのか?

 太子集団の代表・陳志の正体は諸説ある。現地語ができないにもかかわらずカンボジアで28歳で起業、わずか10年で詐欺園区と不動産コングロマリットの王者になるのは、普通の人間ではまず無理だ。現地在住の日本人によると、太子集団は10年前に創業された当初から巨大な存在で、不動産投資をがんがんおこなっていた。創業資金は大きな謎だったという。

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 では、陳志は何者で、太子集団はいかなる組織なのか? 海外の中華圏のネット情報では、陳志が「習近平の隠し子」であるといった根拠不明の情報(習近平は過去、陳志の故郷の福建省に長く勤務している)もかなり広まっている。

陳志。一見してわかるようにまだ若い。本人HP(https://www.chenzhicambodia.info/)のインターネットアーカイブより。

 陳志と習近平ファミリーの関係については、もうすこし具体的な話もある。10月22日、カナダ在住の中国人ジャーナリストの盛雪(シェンシュエ)がXで明かした説だ。

 すなわち、陳志は広東省党委員会書記である(ホワン)(クン)(ミン)(習近平の元部下で福建省出身の大物の1人)の妻の姉の息子で、習近平の姉の(チィ)(チャオ)(チャオ)や、習派の福建グループの高官の資産管理とマネロンを担当しているという話である。盛雪によると、陳志は斉橋橋の手配によって、中国公安部や外交部、さらに深圳にある習家の拠点である「深圳迎賓館」に直接アクセスできる立場なのだという。

 ただ、筆者が直接面識がある盛雪本人に電話で当該ポストの事情を尋ねたところ、中国国内のある信頼できる情報源の話であるといい、ウラは取れていない模様だ。興味深い情報、という範囲にとどまる話だろう。

 もっと確度が高いのは、カンボジアの大臣と直接アクセスできる立場の人物から、私が今年5月に現地で取材した話だ。彼は同国の某大臣から太子集団は人民解放軍のフロント企業であると直接教えられている。