東京医科大事件「裏口入学」文科省局長の悪だくみを暴く

森 功 ノンフィクション作家
ニュース 社会

出世の階段は次官まであと一歩だった

佐野太元文科省局長 ©時事通信社

 平成の市町村合併により塩山市や勝沼町などが合体し、2005年11月に誕生した山梨県甲州市は、日本一の葡萄の産地として知られる。全国のワイン通が、年中勝沼ワイナリーに集う一方、夏の収穫期の地元農家では一家総出で忙しく働く。文部科学省前科学技術・学術政策局長の佐野太(59)は、丘陵斜面に葡萄や桃の果樹園が広がる塩山地域の穏やかな農村に生まれ、高校時代までこの地で育った。

 その評判の秀才が東京地検特捜部に受託収賄容疑で逮捕されたのは、葡萄や桃の収穫前、7月4日のことだ。故郷の塩山はにわかに事件の話題で持ちきりになる。また文科省も事前に捜査を知らされることなく、本人は逮捕と同時に役職を解かれた。報道では「佐野前局長」となっている佐野は、事実上、現役局長のまま摘発された。

 この日、特捜部は佐野のほか、東京医大とのパイプ役を果たしたとする収賄のほう助容疑で、医療コンサルタントの谷口浩司(47)を逮捕。贈賄側の東京医大前理事長の臼井正彦(77)と前学長の鈴木衞(69)は、在宅のまま取り調べられてきた。2人はあっさり罪を認め、地検が逮捕せずに捜査に協力させたかっこうだ。当局の調べによれば、佐野が谷口を介して東京医大に接触し、息子の入学を頼んだという。いわゆる裏口入学事件である。

 中央省庁本省の局長という高級官僚を検挙したとはいえ、容疑そのものは個人犯罪だ。政治家や自治体の首長などが絡んだ組織的な疑獄事件を追うイメージの強い特捜部にしては、ケチな事件に見える反面、別な狙いがあるようにも感じる。そんな事件を摘発できた決め手は、当事者たちが密談したときの音声データだった。昨年5月10日のことだ。

「息子のことで申し訳ないです」

「まあ、来年は絶対大丈夫だと思いますが、もうあと5点、10点ほしかったね」

 東京医大理事長の臼井がそう水を向けると、佐野が申し訳なさそうに頭を下げた。

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source : 文藝春秋 2018年09月号

genre : ニュース 社会