隠れ「水戸水脈」

鹿島 茂 フランス文学者
ライフ ライフスタイル 歴史

徳川慶喜(1837年〜1913年)
渋沢栄一(1840年〜1931年)
菊池 寛(1888年〜1948年)
山川菊栄(1890年〜1980年)
林 芙美子(1903年〜1951年)

 水戸藩は幕末にいきなり「尊王攘夷」の思想により歴史の前面に登場し、血みどろのテロリズムを全国に拡散したが、藩内抗争によって自滅し、維新後の歴史にはほとんど影響を及ぼさなかったように見える。

鹿島茂氏 ©文藝春秋

 だが、さらに眼を凝らすと、隠れ「水戸水脈」のようなものが存在し、「尊王攘夷」とは関係ないところで、さまざまなタイプの代表的日本人を生み出していったのである。

日本一の尊王家・徳川慶喜

 江戸幕府最後の将軍・徳川慶喜は明治40年に至って、これまた最後の幕臣・渋沢栄一の度重なる懇請に応えて重い腰を上げ、史談会「昔夢(せきむ)会」に出席して歴史家の質問に答えるという、世にも稀な作業に着手した。

晩年の徳川慶喜 ©文藝春秋

 こうして出来上がったのが『昔夢会筆記』と『徳川慶喜公伝』であるが、『昔夢会筆記』の東洋文庫版解説者・大久保利謙(大久保利通の孫)は歴史の当事者が記述された歴史と対峙するという類い稀な歴史書についてこう論評している。

「読者はこの問答のやりとりの中から、慶喜の答えのみならず、その言外にひそむ真相、或いは史実を読みとることができよう。この言外の意味こそが、この筆記の価値であるともいえるのである」

 これが何を意味しているかというと、質問に対する慶喜の答というのがわれわれの期待するものとかなり違っているということである。慶喜は自分の取った不可解としかいいようのない行動について簡潔に答えているのだが、理由なり背景についてはほとんど言及していないのだ。

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source : 文藝春秋 2023年8月号

genre : ライフ ライフスタイル 歴史