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「書は読めなくてもいい」皇居三の丸尚蔵館の開館記念対談で学んだ、書画を楽しんで鑑賞するコツ

編集部日記 vol.49

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エンタメ アート 歴史
磯田道史氏(左)と島谷弘幸館長 ©文藝春秋

「文藝春秋」5月号では、歴史学者の磯田道史先生と一緒に、皇居三の丸尚蔵館で開催されている開館記念展「皇室のみやび―受け継ぐ美―」にお邪魔しました。

 昭和天皇の崩御に伴い、皇室に代々受け継がれた美術品が国に寄贈されたことを機に建てられた当館には、国宝から皇室ゆかりの品まで、貴重な美術品が収蔵されています。

 取材にうかがった際に開催されていた第二期(現在は会期終了)では、明治・大正・昭和期の天皇が親しまれてきた美術品や、皇室の慶事を祝って献上された作品が展示されていました。

 さらに今回は、国宝に認定された伊藤若冲の《動植綵絵》や、大河ドラマ「光る君へ」にも登場する藤原行成が書写したとされる書《粘葉本(でっちょうぼん)和漢朗詠集》など、第四期(5月21日〜6月23日)に展示される貴重な品々も特別に見せていただきました。

 皇居三の丸尚蔵館の島谷弘幸館長と磯田先生が、美術品を通して皇室や日本の歴史を紐解いていく本記事。伊藤若冲《動植綵絵》を鑑賞中に明かされた磯田先生の結婚秘話(!)も必読ですので、是非ご覧になってください。
 

「書」の話で意気投合する場面も ©文藝春秋

 ところでみなさんは、「書」はお好きですか?

 お好きな方には大変申し訳ないのですが、私はこれまで「書」、特に草書体で書かれた書に苦手意識を持っていました。美術館で絵を見るのは大好きなのですが、書画を目の前にすると、どう鑑賞すればいいのか分からず、崩し字だと読み方もよく分からない……。

 とはいえ完全に素通りするのも失礼な気がして、「ふむ、書があるな」と分かったつもりで展示ケースの前をしばらくうろつき、「さて、十分楽しんだので次の作品を……」と絵画や仏像の方へ逃亡。そうやって書の展示から逃れてきました。

 今回館内を案内してくださった皇居三の丸尚蔵館の島谷館長は、長年書を研究してきたスペシャリスト。島谷館長は「書は『分かりづらい』と敬遠されてしまいがちで……」と笑いながら、こう教えてくれました。

 島谷 書は読めなくてもいいんです。唐紙など料紙に着目するのも良いし、流麗な筆致や力強い書風、墨の濃淡など、実は見るところはたくさん。もちろん読めたらもっと面白いですが、最初は感性を重視して、絵を鑑賞する感覚で楽しんで欲しいですね。

 島谷館長の話を聞きながら、平安時代の古筆の中でも屈指の名品《粘葉本和漢朗詠集》をよく見てみると、書が書かれた唐紙に使われた雲母(きら)の輝きや盛り上がり、模様の凹凸が「こんなにはっきり見えるんだ」と驚くぐらい視認でき、面白い……。いま思えばすごくシンプルな発見ですが、読めなくても楽しめる書の鑑賞方法に気づかされました。

藤原行成伝《粘葉本和漢朗詠集》 ©皇居三の丸尚蔵館

 磯田先生も、また違った視点で書の楽しみ方を教えてくれます。

 磯田 平安の墨、筆、紙はやはりとても良いですね。ほんの一握りの平安貴族が使用するので、その品質は非常に高いレベルが保たれている。だんだんとみんなが欲しくなって量産されると、どうしても質は下がってしまう。刀でも平安末期の刀剣と、幕末に実戦用に粗製乱造されたものでは、全く質が異なります。

 読めなくても良ければ、絵を鑑賞するように楽しんでも良い。書そのものではなく、筆、墨、紙に注目してみても良い。予習してきた作品情報の答え合わせをしに美術館に行ってしまいがちな自分にとって、原点に回帰した1日になりました。

 ただ、「分からなくても楽しめればいい」とはいえ、書以外でも圧倒的な知識をお持ちのお二人と鑑賞すると、作品の制作背景や歴史も知ることができ、それも楽しい。「島谷館長と磯田先生と一緒に美術館に行って、解説してほしい!」とも思ってしまうのでした。

「文藝春秋」5月号では巻頭グラビアでも皇居三の丸尚蔵館の様子を紹介しています。ぜひカラーグラビア特集記事のダブルで皇室の名品をお楽しみください。

(編集部・大岡)

source : 文藝春秋 電子版オリジナル

genre : エンタメ アート 歴史