新型コロナウイルス感染症の世界的流行以来、ズームのようなオンライン会議システムを使うようになった方も多いと思います。画面には参加者のビデオ映像が並び、自分の映像もあります。そのとき、あなたが見ている自分の映像は、あなた以外の参加者が見ている映像とは違うことをご存じでしょうか。
会議システムの「設定」から「ビデオ」に行くと、「マイビデオをミラーリング」を選べるようになっています。初期設定ではミラーリングがオンになっていて、これは「鏡に映っているように映像を反転させる」という意味です。
たとえば、本を手にもって映すと、表紙の文字が反転して鏡文字になっています。設定でミラーリングを外すと、文字は正しく映るようになりますが、今度は鏡で見慣れているあなたの顔が反転します。私は左右の目の大きさがやや異なるので、ミラーリングを外すと違和感を覚えます。しかし、これが他の参加者が見ているあなたの映像なのです。
私の妻は、小学生のときに、トイレの鏡に映った友達が普段見慣れている顔と違ったので、「知らない子だ」とビックリしたそうです。
鏡に映すと、あなたの顔は反転するし、文字は鏡文字になる。それはなぜでしょう。考えたことはありますか。
湯川秀樹に続き日本人として2人目にノーベル賞を受賞した朝永振一郎は、60年ほど前に書いたエッセイ「鏡のなかの世界」で、この問題を考察しています。いろいろな説明を検討しますが、「何だか解せない」、「何かもっと一刀両断、ずばりとした説明があるのか」、「読者諸兄に教えていただきたい」と未解決のまま終わっています。
鏡に文字を映すと鏡文字になるのは、左右が反転するからだと思っている人もいるかもしれません。しかし、もし左右が反転するのなら、上下も反転するはずではないでしょうか。
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source : 文藝春秋 2024年6月号