中国でビジネスをしている知人が以前であれば、少し冗談めかして口にしていた言葉がある。

「あの国では『金』『地位』『名誉』の三つのうち、どれか二つを選ばなければならない」

 でも、最近、この言葉をめったに聞かなくなった。

 中国はこれまで、反資本主義的な思想の中に科学技術を上手く取り入れ、AIやICT、暗号資産、さらには宇宙開発といった分野への投資を後押ししてきた。宇宙開発などはそう簡単にリターンは望めないような事業だけれど、目の前の損得にはあまりこだわらず、「未来」に向けてのビジョンやテクノロジーに投資する。そうした積極的で長期的な姿勢には、意外に思われるかもしれないけれど、時にシリコンバレー的な要素が感じられたのも事実だ。

 加えて、中国の場合、14億人という人口が持つ圧倒的なエネルギーがある。その意味で、「日中の差ってこういうことなんだよな」と感じたのは、ハーバード・ビジネススクールである講座に携わった時のことだった。

 2014年に開校したオンライン教育のプラットフォーム「ハーバードX」。日本人の受講生が100人ほどだったのに対し、中国人の受講生は約30万人にも及んだ。彼らの多くが「AIをベースに社会が変わっていく」といったビジョンを共有しているのだから、中国のエリート層の分厚さというものが分かるだろう。

 そうした国家の強力な後押しもあって、この10年、20年で次々と生まれたのが、アリババ(阿里巴巴)やバイドゥ(百度)といった中国の巨大ベンチャー企業だった。

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source : 週刊文春 2022年2月24日号