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クリスマスの早朝、教会に集う「名古屋フィリピンパブ嬢」の夢と現実

「この時期は、家族に会いたくて寂しくなりますね」

2018/12/25

 外はまだ暗く、寒い午前5時。街は静かで、新聞配達のバイクと、数台の車が走るだけ。そんな朝早く、大きなステンドグラスから光が漏れる教会の前には、車が次々と停まり、フィリピン女性たちが、中へと入っていく。ここは愛知県名古屋市東区にある、カトリック布池教会だ。

 重い扉を引き、中に入ると天井の高い大聖堂がある。木製の長椅子が何列も並び、2階には大きなパイプオルガンがある。国の登録有形文化財にも指定されている、由緒ある建物だ。

早朝の布池教会。外はまだ暗い ©中島弘象

香水の匂いを漂わせながら

 大聖堂内には、優しいメロディーのフィリピンの言語である、タガログ語の曲が流れる。祭壇の上には、クリスマスツリーが2本飾られている。朝5時だというのに、前の方には、30人ぐらいが静かに座って、ミサが始まるのを待っている。

 司会のフィリピン女性がミサが始まることをアナウンスすると、集まった人々が一斉に立ち上がり、曲が流れ、歌を歌い、フィリピン人司祭が入場する。言語はすべてタガログ語だ。

 ミサが始まってからも、若いフィリピン女性達がヒールをコツコツと鳴らして、香水の匂いを漂わせながら、次々と入ってくる。ピンク色の口紅に、黒色のアイライン、綺麗に描かれた眉毛、服は黒色のダウンジャケットや茶色いトレンチコートなど、似たような格好をしている人が多い。

 説教の時間が始まると、司祭は歩きながら、身振り手振りを大きく交えて話をする。話のテンポが良く、時折冗談を混ぜながら話すと、大聖堂の中は笑い声で包まれる。何かショーを見ているかのようだ。

司祭の説教はすべてタガログ語だ ©中島弘象

 司祭の説教が終わると、皆、長椅子から降り、膝をつき、両手を握り、目を閉じて祈る。ミサに出ている人を見ると、ほとんどがフィリピン女性だ。ミサの最中2、3歳の子供が走り回り、その後ろを若い母親が追いかける。

 フィリピンから来た彼女達にとって、教会はどのような場所で、何を祈るのだろうか。

生活の一部として神様に祈る

「私たちカトリック教徒にとってミサに出るのは当たり前のことです。何かをお願いするために祈るのではなく、健康でいられること、家族がみんな元気でいることを神様に感謝します」

 毎朝ミサに参加している、白髪混じりの髪を後ろに束ねた、少しふっくらした体型の中年女性は、教会に来る理由について尋ねると、こう答えた。

 フィリピンは国民の8割がカトリックを信仰している。敬虔なカトリック教徒が多く、街のいたるところに教会が建っており、どこの家に行っても、十字架やロザリオ、キリストが描かれた絵が飾ってある。神様に祈るという行為は、彼らの中で生活の一部なのだ。

 そんな彼女達にとってクリスマスは一年の中でも特別な日だ。フィリピン人司祭は流暢な日本語で、クリスマスの意味を教えてくれる。

「クリスマスは、イエス様がいつ再び私たちの元に戻ってこられても、私たちは準備できています、とお祈りする日です」