オンラインメディアの先頭を走るセンパイたちにお話を聞くシリーズ、2人目の登場は「デイリーポータルZ」編集長の林雄司さん。くだらなくて笑っちゃう記事から、なぜか感動してしまう記事まで、2002年のスタート以来「おもしろ系の総本山」の存在感は揺らぐことがありません。ウェブでの「おもしろい」ってどういうことなのか? いろいろ聞いてみました。

情報はどうでもいいから、よけいなことを書く

 

――いきなりド直球の質問なのですが、「デイリーポータルZ」はなんでこんなにおもしろいんでしょうか?

 いやいやいや(笑)……でも、僕は文章がおもしろいと思っています。なのでネタがおもしろい人よりも、文章がおもしろい人に書いてもらうようにしています。ヘンな実験をするにしても、成功はまったく求めていなくて、失敗した時におもしろくまとめられそうかどうかを気にしていますね。

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――とはいえ、いかにもなウケ狙いに走った文章はあまりないですよね。

 あっ、そうですね、たんたんと……ちゃんとエッセイになっていれば、自分の話として書いて面白くなっていればいいと思ってます。器用な人が書いているDIY系のサイトはほかにいくらでもあるので、それはデイリーではいいや、と。失敗して言い訳をしている姿のほうがおもしろいんですよね。「うまくいかなくていいから」と、ライターさんには伝えています。

 うまくいったときのイメージをバーンと出して、期待値を高めてから失敗して、その言い訳を書いてもらう。だからハウツーにはなっていなくて、むしろその人のエッセイとして成り立っちゃう、そういうのがおもしろいですね。毎回成功させなきゃと思うとプレッシャーですし、成功した場合、実はあまり書くこともないんです。「できた」だけしか書くことないし、そんなのいけ好かないじゃないですか(笑)。

 

 情報はどうでもいいから自分のこと、よけいなことを書く。たとえば辛い料理で町おこしをしている「激辛商店街」を取材した人が、最初に入った店の激辛メニューが食べられなくて、次の店で辛くないものを頼んじゃったり、世界最強の唐辛子の粉をティッシュにくるんで持ち帰って「どうしよう。ちょっとした武器だよね、これ」とか言うのって、情報でもなんでもない。でもそういうところが面白いなって思うんですよね。週刊誌でも「本誌記者は~」と突然自分が出てくる、あのトーンが好きなんです。偏った視線があるものが好きなんでしょうね。

――ライターとしては、情報もなければ結論もない文章を書くことに、職業的な不安を感じてしまうかも知れませんね。

 ああー、そうですよね。「コンビニで売っているこれとこれを混ぜるとうまい」みたいに情報に着地する文章を書かないと、落ち着かないんですよね。でも、それよりもなんで混ぜようと思ったのかがデイリーでは大事だし、食べてみて「実家みたいな味がする」みたいな意味のわからない表現があったほうがいいんです(笑)。

「週刊文春」でずっと連載されていた堀井憲一郎さんも、ものすごく調べて書く人ですけど、調べた結果よりも調べている堀井さんがおもしろいと思っちゃうんですよね。堀井さんの『いますぐ書け、の文章法』(ちくま新書)はすごく好きです。『ホリイのずんずん調査 かつて誰も調べなかった100の謎』(文藝春秋)も買いました。