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新元号「令和」元ネタの万葉集では、「妄想力」が爆発していた

京大院卒の書評家が解説する

2019/04/03
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梅を見る宴会するには早すぎる件

 さて、「令和」の出典となった歌と題詞の話に戻ろう。一見、いかにも雅やかな自然の描写に見えるが……実はこの出典、『萬葉集』の「妄想力」が爆発しているのだ。ぜひ題詞の冒頭部分を、よ~く読んでほしい。

天平二年正月十三日、萃于帥老之宅、申宴會也。于時、初春令月、氣淑風和。(天平二年の正月十三日に、帥老の宅に萃(あつ)まりて、宴会を申(の)ぶ。時に、初春の令月(れいげつ)にして、氣淑(よ)く風和(やはら)ぐ)

 冒頭部分、「正月十三日」と書いてある。これ、ぼんやりしてると読み飛ばしてしまうのだけど。旧暦「正月十三日(天平二年)」とは、太陽暦では「2月4日(西暦730年)」のことである。

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 よく考えると……2月上旬、梅、咲かなくない?

©iStock.com

 宴の場所は大宰府(※福岡)。2月4日に梅を主役にする宴会は、ちょ~~っと早いんじゃないか。という冷静なツッコミが、長年萬葉集研究者によってなされてきた 。(2)

 ちなみに現在、大宰府観光協会による「大宰府だより」ホームページには2019年2月24日の段階で「境内の梅は見頃です」と書かれてある。もちろん飛梅は早くから咲くし、異常気象の可能性もあるけれど、やっぱり梅を見る宴会するには早すぎる。不自然。

万葉集に溢れる“妄想力”

 他にも違和感のある箇所はいくつもある。この後に続く「梅の花を詠んだ歌」たちには、「梅の花は今が真っ盛り! 超満開!」(820番)という歌があるのに、その直後に「梅の花が雪のように散ってますね……!」(822番)という歌があったりする。

 お分かりか、同じ宴会で詠まれたはずなのに、梅の花の咲く度合いがバラバラなのだ。さすがに「梅満開」と「梅めっちゃ散る」が両立するのはおかしいやろ。設定くらいすり合わせんかい。

 さらに822番(「雪のように梅が散ってる!」)の歌をみんな気に入ったのか、次の歌である823番以降、やたら「梅の花が散るか否か」を題材にした歌が増えているのだ。おいおい、目の前の梅ぜったい見てへんやろ。気に入った表現使いたいだけやろ。

 あとは、日本の慣習というよりは中国風の表現である「梅の花をかざす」って表現をやたら使ったり(832-3番)。いや絶対梅の花を折ったりしてへんやろ。

 総じて萬葉集の宴会、想像力逞(たくま)しすぎやろ。