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名古屋教育虐待殺人事件「中学受験で父親が息子を刺すに至るまで」

「被告人もその父親から刃物を向けられていた」裁判傍聴記#1 

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 妻のMさんが止めに入ると、「中学受験をしたこともねえヤツがガタガタ言うんじゃねえ」とキレた。Mさんは「大声を聞いた誰かが通報してくれないかと思って、わざと家の窓を少し開けていた」とも証言している。夫婦の会話はほとんどなくなり、食事も洗濯も別々に行うようになっていた。

 あるとき手元にあったカッターナイフを持ちだしたところ、崚太君が怯えて勉強し始めたことに味をしめた。それがあるときからペティナイフになり、包丁になった。犯行に使われた包丁は、普段台所で使用していた包丁ではない。崚太君を脅す目的で購入した包丁だ。

佐竹憲吾被告のマンションを調べる捜査員 ©共同通信社

 中学入試本番が迫るとともに、佐竹被告は焦り、崚太君への態度はエスカレートしていった。2016年8月13日(犯行8日前)、崚太君の額近くの頭髪が丸くごっそりなくなっているのをMさんが見つけた。最初は「ぶつけただけ」と説明していた崚太君だったが、Mさんが問いただすと佐竹被告にやられたと打ち明けた。

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 Mさんは「ママとおうちを出よう」と提案するが、崚太君は「パパとママといっしょがいいから嫌だ」と言う。Mさんが食い下がると、崚太君は「8月いっぱいまで答えを待って」と言った。

 なぜ8月いっぱいなのか。あるいは夏休みの成果を試すテストで自分がいい成績を取ればすべてが丸く収まると考えていたのかもしれないと私は想像する。

犯行2日前、包丁で太ももを刺す

 8月19日(犯行2日前)の夜、佐竹被告は崚太君を連れて車で外出した。帰宅したのは翌日昼前。その間、崚太君は飲み物すら与えられていなかったという。その車の中でのやりとりが、ドライブレコーダーに記録されており、その書き起こしが法廷で公開された。

佐竹被告:書けって言ったら死ぬほど書け。オレが覚えろと言ったことはぜんぶ覚えればいい。てめえ大人を馬鹿にするなっつうのがわからんのか。
崚太君:イタい! イテテ!
佐竹被告:包丁脚についとるだけやろ。何が痛いか。入試やらせてもらってるだろ。
崚太君:痛い!ごめんなさい。
(このとき崚太君は太ももを包丁で刺されていた。)
佐竹被告:オレ、刺すっていったはず。多少痛くてもがちゃがちゃうるせえ。
崚太君:イテテ!
佐竹被告:脚ぐらいですむと思ったのか、糞ガキ。こんな怪我、なんなんだ。