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【東京がんストーリー】妻の“がん”を「千載一遇のチャンス」と捉えたライター夫婦

2019/09/10
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 35歳でステージ3の「大腸がん」が見つかった、ライターの小泉なつみさん。10歳年上の夫・平田裕介さんも同じくライターで、がん発覚の1年前に子どもが生まれました。

 小泉さんががんをカミングアウトして、「文春オンライン」で入院や抗がん剤治療、受精卵凍結などの経験を書きはじめた時の印象について、「我々の“ギフト”として捉えるしかないんじゃない?」と平田さんは語ります。2018年11月の告知から、小泉さんが約9カ月にわたってがんを治療し、取材した先に見えてきたものとは。

平田裕介さん(右)、小泉なつみさん

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もっとも“がん”の煽りを受けたのは、間違いなく夫

 私には10歳上で同業(ライター)の夫がいます。

 私に大腸がんが発覚した時、彼は45歳。自分よりだいぶ年下で、尿酸値も悪玉コレステロール値も低い健康体に見えた妻がある日、ぶっ倒れた。しかも息子は1歳になったばかりで、おっぱいでしか寝つけない時期。そのショックは計り知れない……というか、自分が逆の立場だったらと思うとゾッとする。

 患者本人の私は寝てるだけだったので、もっとも“がん”の煽りを受けたのは、間違いなく夫だ。

 そこで、とんだ茶番にならないかイチマツの不安を抱えつつ、夫インタビューを敢行しました。

 パートナーが“がん”になったとき、配偶者はどんな気持ちになるのか。そして、のほほんと暮らしていた家族に突如襲った未曾有の危機を、夫はどのようにして乗り切ったのか。我が家の場合を、お伝えします。

※本文中、夫の名前は普段の呼び名である「平田さん」と表記しています。

——まず、がんを機に私が顔出しで世間にカミングアウトしたことについてはどう思った?

「こういう仕事しかできない我々の“ギフト”として捉えるしかないんじゃない? 名工が作った包丁を贈られたけど、箱を開けたら持ち手も刃の包丁でさ。どう考えても手が切れるじゃないかと思っていたけど、だんだんと握り方がわかってきたというか……まあそもそも、そんなギフトいらないんだけど。だいたい自分さ、入院中に突然『いろいろ写真撮っておいて』って俺に頼んだじゃん。それで『こいつ、やる気(書く気)だな』ってピンときたから」

 

——そうだっけ。

「そうだよ。手術室から出てきたところとか腫瘍とか全部押さえておけって。だから俺、手術で取った“がん”を見せながら医者が説明してるとこを撮ろうとしてさ。でもシャッターチャンス逃したから『もう一回それ、ピンで持ち上げてもらっていいですか』ってお願いしたもん。医者は怪訝な顔してたけど」

——その後、平田さん自身もがんの記事を書いたよね。周りの反応は気になった?

「このことに限らずだけど、どう思われてもいいやっていう感じなんだよね。禿げてるし太ってるし、別に立派な仕事してるわけでもないし、なんとか生きられるくらいしか稼いでないし」