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藤原 敬之
2017/02/25

トランプ経済の先を読むための「逆転の論理」

保護主義政策がもたらすネガティブ・インパクト

 トランプ経済の先を読むためには何を指針にすればよいか。時流に踊る派手な見出しに惑わされることなく押えておかなくてはならないもの、それは「人間そのもの」だ。

 言い換えれば世界各国の人間の数(量と置き直せる)と性質・気質(質と置き直せる)は常に押えておかなくてはならない。

 社会学者のエマニュエル・トッドがソビエト連邦の崩壊を乳児死亡率の上昇から予言したことは有名だが、人間がどうなっているか……その量と質を見極めることはあらゆる社会科学の領域で重要になる。

エマニュエル・トッド氏 ©松本輝一/文藝春秋

トランプは「良好な経済を引き継いだ」という事実

 トランプ大統領の誕生は中間層の反乱の結果とされている。では、その中間層とはどのような人たちか。

 大学に入学はしたけれど卒業出来なかった人たち……経済的問題や学力の問題から大学をドロップアウトした人たち。アメリカで中間層という人口カテゴリーを形成しているのはそのような人たちなのだ。それなりの教育水準で中低賃金労働に従事し、多くは白人。アメリカ社会の安定を支えてきた人たちだ。その層の不満の蓄積(実質賃金低下と経済格差拡大による)がトランプ大統領を生んだとされている。

 ここで事実を見ておきたい。オバマ政権の8年、アメリカ経済は着実に上向いていたという事実だ。

 ブッシュ政権末期、2桁に近かった失業率は改善を続け、昨年9年ぶりの低さである4.9%まで下がった。アメリカの労働状況を考えると完全雇用状態に近いといえるものだ。企業業績は好調で株は史上最高値の更新を続けFRBが利上げ態勢に入るのは当然だった。“グローバリゼーションでの経済勝者”としてのアメリカという国を示していたのだ。

 トランプはその良好な経済を引き継いだ。

 つまり“良いとこ取り”したのだ。少なくともここから半年から1年、経済状態を示す数字は政権に追い風となる。保護主義政策によって“国内雇用創造”と“移民制限”を推し進めようとするトランプにとって政権運営上極めてありがたい筈だ。

経済悪化がトランプ支持層を直撃する可能性

 だが問題はその保護主義政策だ。推進すれば数年内に経済の大幅な悪化をもたらす可能性が高い。

 株主利益の極大化を定められてグローバル化を進めてきたアメリカの企業群は、仮に大幅な法人税減税が行われたとしても、その構造を簡単に変えることは出来ない。原材料や部品の調達、生産そのもの、製品管理、流通、そして販売。複雑に絡み合って利益最適化されたサプライチェーンやグローバルネットワークの変更は簡単ではない。

トランプ大統領とムニューチン財務長官 ©getty

 そこへ保護主義政策から様々な障壁が設けられれば、物の動きはある時点から急速に落ち込んでいく筈だ。必要な物が必要なだけ入って来ない。ボトルネック・インフレーションが様々な分野で見られるようになり国民生活が支障をきたすようになる。悪性インフレが懸念され金利が急上昇する可能性が高い。そうなると最も悪影響を受けるのが……借金を抱え、所得の低い中間層になる。つまり、トランプを支持した層が最悪の経済状況に陥ることになるのだ。

 保護主義政策からの製造業の国内回帰。それによる雇用増の経済へのポジティブ・インパクトと“グローバリゼーションでの経済勝者”であったアメリカの企業群のネガティブ・インパクトを比べれば蟻と象ほどの違いになる。“良いとこ取り”は逆転を見せる。

トランプ経済のもたらす未来は……

 ここで再び押えておかなくてはならないのが「人間」という要素だ。

 “グローバリゼーションでの経済勝者”企業群は経済規模に比して人間の数は少ない。固定費の中核である人件費を下げることが利益極大化に繋がるとして構造上、雇用は限られている。そのことが過去、アメリカ国内での所得や資産の格差を生み、中間層の不満を高めてきた。中間層を支持母体とするトランプ政権が本来やらなくてはならないのは、累進課税の強化と課税平等の徹底による個人資産格差の縮小の筈だが……トランプ自身が自分の富に固執する性格からそれはあり得ないだろう。

 そして、保護主義政策を押し進めて経済が下降トレンドに入り、物価や金利が上昇、国民生活の悪化が明確になれば、中間層を核としたアメリカ国民の不満は爆発することになる。

 そうなった時、政府の常套手段はいつの時代も変わらない。国民の目を外に向け不満を逸らそうとする。「全ての元凶は外国だ!」を繰り返す筈だ。

 とすれば、次に何が起こるのか?

 前と同じことを書くのは憚られるが……

 こうやって戦争になっていくということなのか。