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インド仏教徒1億5000万人の頂点に立つ“日本人僧” 佐々井秀嶺84歳とは一体何者か?

「自殺未遂3回、暗殺未遂3回、不法滞在20年」の僧侶がスラム街を変えた

2019/11/14
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佐々井氏の暗殺を企む僧侶たち

 現地取材をすればするほど、佐々井氏が庶民にどれだけ愛され人気があるのかよく分かるのだが、おもしろくないのが激増する仏教徒に恐れをなすヒンドゥー教の過激派や佐々井氏の人気を妬む一部の仏教僧だ。取材中も密告があったと秘密警察が乗り込んできたり、佐々井氏の暗殺を企む僧侶たちの陰謀渦巻く改宗式に出席したりと常に緊張状態が続いた。たった数週間の現地取材でも毎回、私はヘトヘトなのに、これが何十年も毎日、続いてきたかと思うと本当に頭が下がる。

新人坊主に睨みをきかす佐々井氏。怒ると怖い。

 どんなに命の危険が及ぼうと、佐々井氏は日本に逃げ帰ることはなく、タイでの2年間も含め44年間、一度も帰国せず貧しいインド人のために奔走してきた。ようやく帰国したのは東日本大震災の少し前のことだ。今では1年に一度、1か月間ほど日本に帰国し被災地や全国の支援者の元を訪れている。

「なぜ44年も帰国しなかったのかって? 目の前に困っている人がいるのに、日本男児たるもの、どうして日本に帰れよう。インド人も日本人も関係ない。それに一度、出家したら、すべての母は自分の母となり、すべての子は自分の子となる。自分の母であっても特別ではない。俺を待って会えずに亡くなった母には悪いが、それだけの覚悟をして出家したんだ。天国の母も分かってくれるだろう」

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1年に一度、帰国しては全国を回る。醤油味の東京ラーメンが好き。

「世界を動かす50人」にも選ばれる

 とにかく気が短くまわりの人を振り回すこともあり、決して聖人君子ではないが、貧しい人たちと共に苦しみ、喜び、時にはのたうちまわる佐々井氏を見ているうちに、人を苦しませるのも人だけれど、手を差し伸べ助けるのもまた人なのだと取材を通して教えてもらったような気がする。

 いつまでも元気でいてほしいが、激務や度重なる暗殺未遂のため、取材を始めた5年前から比べると明らかに佐々井氏の体力は落ちている。高齢ということもあり、来年も帰国できるか分からない。

激務と暑さで体調を崩し、寝ながらインタビューに応える佐々井氏。血糖値を上げるためペプシを一気飲み。

 インドで廃れた仏教を復興し、身を削り命がけで人々を救っている日本人僧がいることを私は誇りに思う。インドでは絶大な人気を誇り、世界各国のメディアが取材に来る佐々井氏だが、祖国日本では、あまり知られていないのが残念だ。

 ここ最近、NHKのドキュメンタリーに出演したり、日経のビジネス誌で「世界を動かす50人」にも選ばれるなど、その存在が少しずつ知られてきてはいるが、より多くの人に佐々井氏の半生や活動を知ってほしい。心から人の幸せを願う佐々井氏の行動と言葉には、宗教や国籍を超え、どんな人にとっても生きていくのに本当に大切なことが詰まっていると思うからだ。

撮影=白石あづさ

 

インド仏教徒1億5000万人の頂点に立つ“日本人僧” 佐々井秀嶺84歳とは一体何者か?

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