友達以上、でも恋人とは言い切れない関係を29歳の女性の視点から描いて圧倒的な支持を得た『男ともだち』著者の千早茜さんと、同じく20代後半の女性を主人公にした映画「アズミ・ハルコは行方不明」の監督・松居大悟さん。お互いの作品のファンだという2人による恋愛トークが実現した。

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出会いのきっかけは尾崎世界観

 

――おふたりは知り合う前から、お互いの作品をご覧になられていたとか。

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松居 もともとクリープハイプのミュージックビデオを撮っていて、尾崎(世界観)くんから「千早さんの『あとかた』を読んで、ぜひ映画化してくれ」と言われたのが最初で、すごく面白くて一気に読みました。尾崎くんにも「すごいいいじゃん」と言って。ぼくは、小説を読むのにすごく時間がかかるんですけど、千早さんの作品は、映像が浮かぶので、とても読みやすくて。

千早 ありがとうございます。私は映画『アフロ田中』を見たときに、かわいい映画を撮る方だなと思っていたんです。男の子の馬鹿なところをまっすぐ描いていて。私はクリープハイプが好きで、彼らのミュージックビデオを撮っているのも松居さんだったので気になっていました。ミュージックビデオを繋げた群像劇の『自分の事ばかりで情けなくなるよ』は大好きでDVDも持っています。それで、松居さんが主宰されている劇団ゴジゲンの京都公演があるというので拝見しに行って。そのときに初めてお話をさせていただきましたね。

創作の原点は「ぬいぐるみ会議」

千早 去年、松居さんが演出をされた『イヌの日』を拝見したんです。もうくらくらするほど好みでした。帰ってからパンフレットを読んだら、松居さんが子供の頃、ぬいぐるみに名前をつけて、旅行に行くときは誰を連れて行くか会議をしていたとあって、「同じだ」と思いました。

松居 絞れなくて、車のトランクいっぱいになるぐらい連れて行ってましたね、カモノハシのぬいぐるみが好きで東京にも連れてきました。

千早 わたしも旅行の前は選出メンバーのぬいぐるみを会議で決めていました。ぬいぐるみで遊ぶときも、ストーリーと設定をつくって、それを妹に教えて覚えさせたりしていましたね。妹は覚えきれなかったですけど。その同じパンフレットに防空壕の中と外とどっちがいいかという質問があり、松居さんは「中」と答えていらっしゃって、そこも一緒だったんですよね。

松居 防空壕の外も中と同じ気がするんですよね。

千早 そうそう。だったら、より濃密そうな中がいいなと。作品づくりにも集中できそうですし。その後、松居さんと改めてお話しする機会を得たときに、作家になってから誰にも喋れなかったことを話せてすごくスッキリしたんです。あまりにもスッキリしたので、その日、宿に帰った途端にぱたりと布団に倒れて深く眠ってしまいましたね。私、化粧を落とさず寝てしまうとか、まったくない人間なのに(笑)。松居さんとの会話は、すごくデトックス効果があったんですよね。

強者ゆえの孤独

『男ともだち』(千早 茜 著)

――そのときはどんな話をされたんですか?

千早 私は作家になったらひとりで闘わなければいけないと思っていたんです。でも、松居さんは仲間がいないと絶対無理とおっしゃっていました。私も学生時代は仲間がいないと作れないものを作っていて、そこからひとりだけプロになってしまって。そのことがどこかでひっかかっていたんです。それを寂しいと感じては駄目だと押し込めていたけれど、そのときは素直に言葉にできて。

松居 そうだったんですね。

千早 『男ともだち』でも、主人公のイラストレーターの神名(かんな)は、表現者はひとりじゃないといけないと思っているんですよね。神名が大学の先輩とか友人に言われる嫌味は、実はわたし自身が言われたことなんです。神名は強いかもしれないけれど、それゆえに孤独でもある。表現者の孤独を描きたかったんですよね。作中の神名は29歳で、その年齢で作家デビューした自分を投影していた部分はあります。

松居 映画『アズミ・ハルコは行方不明』を撮った時は、ぼくも、主演の蒼井優さんも、プロデューサーもみんな29歳から30歳になる年だったんですよ。

 ぼく自身は、集団でものを作ることに価値を置いていて、かつ、一緒に走ってくれるプロデューサーの言葉が信じられたから、自分にとって、得体が知れない同世代の女性のことを、自分は彼女たちみたいに傷つけられていないのに、その傷を描きたいと思ったんですね。

『男ともだち』
29歳のイラストレーター神名葵は関係の冷めた恋人・彰人と同棲をしながらも、身勝手な愛人・真司との逢瀬を重ねていた。仕事は順調だが、ほんとうに描きたかったことを見失っているところに、大学の先輩だったハセオから電話がかかる。7年ぶりの彼との再会で、停滞していた神名の生活に変化が訪れる――。
 

『アズミ・ハルコは行方不明』
とある地方都市に住む27歳の安曇春子(蒼井優)。独身で恋人もいない春子は、実家で両親と祖母と一緒に暮らしている。老齢の祖母を介護する母のストレスが充満する実家は決して居心地のいいものではなく、会社に行けば社長と専務に「女は若いうちに結婚するべきだ」とセクハラ三昧の言葉を浴びせられる日々。春子はふと自分の年齢を実感する。まだ27歳ではなく、もう27歳。若くはないということに……。