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堺雅人「僕は理想の俳優がウォーズマンなんですよ」発言を考える

(「おしゃれイズム」15年4月12日)

 文春オンラインでもおなじみ、テレビっ子ライター・てれびのスキマさんがこのたび『人生でムダなことばかり、みんなテレビに教わった』(文春文庫)を刊行しました。

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 堺雅人は「魚津万蔵(うおずまんぞう)」に改名したいと思っていたと突拍子もないことを言い出した。由来はマンガ『キン肉マン』に登場する全身真っ黒のロボット超人・ウォーズマン。彼の理想の俳優像が「ウォーズマン」だと言うのだ。

 堺雅人は本当に変わった男である。この番組でも彼は、バイトを無断“出勤”してクビになったことがあるだとか、空間認識が苦手で「右・左」が咄嗟に分からないだとか、美術のヌードモデルをやったことがあるだとか、“変人”エピソードを連発していた。

 そんな堺は「リーガルハイ」(フジテレビ)と「半沢直樹」(TBS)という彼の代表作が放送された充実の2013年を「本当に無味乾燥なやりがいのない1年でしたね。何も残らなかった」(※1)と言ってのけるのだ。やっぱり変わっている。

 堺の役作りは形から入る。「『ただしいココロ』をかんがえることにくらべれば、『ただしいカタチ』にむかう作業は、手っとりばやく、無駄がない」(※2)からだ。彼が初めて「演技」をしたのは5歳のときだった。幼稚園で「みなしごハッチ」の劇をやることになったのだ。堺にはその中で「カベムシ」という役があてがわれた。だが、彼は「カベムシ」がどんな虫か分からない。分からないまま演じることはできないと考えた彼は図鑑で調べてみた。しかし、どの図鑑にも「カベムシ」が載っていないのだ。先生に相談すると「じゃあ、クモにしましょう」とあっさり言われ、意固地になった彼は「カベムシしかやれません」と先生を困らせてしまったという。まさに今の変人・堺雅人に繋がるエピソードだ。

©文藝春秋

 ある時では「腹に一物ある男」を演じるための役作りで大きな失敗もした。「ホントに一物入れてみたらどうだろう」と考え、寄生虫館を訪れ、サナダムシの卵を食べようとし、「めちゃくちゃ怒られ」たのだ(※3)。当たり前だ。

 欲しいものを訊かれると、「次の役」と笑って答えている。「この役やりたいという欲はない」(※4)という。また堺は「え、あの作品にでていたの?」と言われることに喜びを感じるのだそうだ。「『うもれるヨロコビ』とでもいうような、違和感なくそこにいる、といった種類の快感」(※2)だ。

「役」に対する強烈なこだわりと、「自分」に対するこだわりのなさ。それはまさに戦うことだけを宿命付けられ、黒ずくめでリングに立ち続けるウォーズマンのようだ。

(※1)フジテレビ「とくダネ!」13年12月18日
(※2)『文・堺雅人』堺雅人(文藝春秋)
(※3)日本テレビ「おしゃれイズム」15年4月12日
(※4)WEB「R25」10年11月18日

文・堺雅人 (文春文庫)

堺 雅人(著)

文藝春秋
2013年7月10日 発売

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