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「この世界の片隅に」あなたはなぜ出資したんですか?(前編)

制作支援メンバーが初めて語る「応援したくなる仕組み」

2017/03/19

成功を確信したのは「花は咲く」「パイロットフィルム」「主演:のん」

山口 今回のクラウドファンディングは、出資の特典に映画のチケットがなく、また試写会も抽選制でしたが、そこは気にならなかったですか。

藤村 こういうクラウドファンディングは、鑑賞券やパッケージを提供するのが普通かなと思っていたのでびっくりはしましたけど、ないからといって気にはならないですね。むしろメールやハガキが来たり、あと記念の缶バッジが作られるたびに、1万円からどんどん目減りしていくけど大丈夫かなって心配だったので、そこからさらに鑑賞券代を引くとなると、ちょっと。

藤村阿智:イラストレーター、ライター、同人作家。現在「旬刊経理情報」で文房具コラム連載中

松島 ぼくも、普通は何かついているのかなと思いますけど、別についていなかったからどうだというのもあまりなくて。ついていたらその分お金に響くからっていうのも確かにそう思いますしね。

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いしたに 試写会に応募するような人はどうせ映画館に行って自分で払って観るだろうし、パンフも買うし、どうせ1万円以上使うのはわかりきっていますしね。ただ、そういうのをプランニングする立場からすると、友達に割引券を配れるとか、僕だったらそういうのはやったかもしれない。クラウドファンディングの時は配給すら決まっていなかったわけで、チケットは出したくても出せなかったでしょうね。

山口 なるほど、そういう事情はありそうですね。で、そうこうしているうちに制作が進み、映像も徐々に上がってきたわけですが、この作品はいける!と確信したのは皆さんどのタイミングですか。

いしたに YouTubeで公開されている声なしの特報(編注:パイロットフィルムの短縮版にあたる)ですね。声については、本職の声優さんは正直困るなというのはあったので、その後声優が決まりました、のんさんです、ってYouTubeで予告を聴いた瞬間に、ああ、この勝負は勝った、これだっていう(笑)。僕は先にコンテを見ちゃっているから、こういう感じの映画になるというのは把握していたんですけど、その時点で抜けていた主役というピースがスッとはまって、あ、これはいけると。

©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

藤村 私はクラウドファンディングよりも前に片渕監督のコラムを結構読んでいたので、これはいい出会いがあったんだなと思っていたんですが、やっぱりこうの先生の作品の雰囲気がちゃんと出せるのかなという不安はあって、そこでNHKで『花は咲く』(編注:こうの史代さんキャラデザイン×片渕監督による短編アニメ)が放映されて、あの調子だったらもう全然問題ないだろうと。私がマンガを読んでいて想像していた動きと何のずれもなかった。

松島 ぼくも『花は咲く』を観て、この組み合わせはいけるって思いましたね。そのあとファンミーティングでパイロットフィルムの上映があって、まだ仮でしたけど主題歌もついていて、気持ちは盛り上がりましたね。すずさんが料理の前にこっちを指差して首を傾げる動きを見たときに、このまま作ってもらえたら大丈夫だろうって。偉そうですが。

山口 僕もパイロットフィルムを観ていけるだろうと思ったクチですね。僕は国内各地の戦跡を見て回るのがライフワークなんですけど、防空壕に避難していて爆撃が始まるシーンを観て、ほんわかした日常の対極のところまできっちり描写されているのを観て、ああこれは一味違うと。

 あと、ひとつの転機だったかなと思うのが、ファンミーティングのしばらくあと、公開1年前に練馬アニメカーニバルで『この世界の片隅に』のトークイベントが開催された時に、宣伝担当の方が号泣されたことがあったんですよ。

山口真弘:ライター。電子書籍端末のほかPC周辺機器・サービスなどをIT関連のレビューを手掛ける。文春オンラインではPC・スマホを中心としたハウツー記事を連載中

藤村 司会をされていた宣伝の山本さんという方が、最後に挨拶すると言って1人で舞台に出てこられた時に感極まって泣き出すという事件があって、それを見てみんなが「頑張れー!」「頑張れー!」みたいなことを席から言って。

山口 そうそう。あのイベントの参加者はほとんどが制作支援メンバーだったと思うんですけど、それまでどこか傍観者的な立場だったのが、あれで一気に我々も参加しているという空気になった記憶があります。個人的にはファンミーティングと並んで印象深いですね。

(後編に続く)

いしたにまさき
ブロガー、ライター、内閣広報室IT広報アドバイザー。2002年メディア芸術祭、2011年アルファブロガー・アワード受賞。「ひらくPCバッグ」で2016年グッドデザイン賞受賞。
ブログ:https://mitaimon.com/
Twitter:@masakiishitani

藤村阿智
イラストレーター、ライター、同人作家。現在「旬刊経理情報」で文房具コラム連載中。
創作同人誌即売会「コミティア」参加歴12年。

サイト:http://www.blackstrawberry.net/
Twitter:@AchiFujimura

松島智
別府移住を目論む温泉好きのウェブデザイナー。パートはボーカル。読まれるもののデザインが好きで、電子書籍をウェブに埋め込んで公開できるフリーソフト「BiB/i」ほかで受賞も。
Twitter:@satorumurmur

山口真弘
ライター。電子書籍端末のほかPC周辺機器・サービスなどをIT関連のレビューを手掛ける。文春オンラインではPC・スマホを中心としたハウツー記事を連載中。
Twitter:@kizuki_jpn

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映画作品以外の写真=松本輝一/文藝春秋

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