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山口 真弘
2017/03/20

「この世界の片隅に」あなたはなぜ出資したんですか?(後編)

3374人から3900万円を集めたクラウドファンディング成功の秘密

クラウドファンディング体験として高い満足感

山口 今回のクラウドファンディングに対する満足度は皆さんどのくらいですか。

藤村 すごく満足していますね。渋らずにもう1万円を出せばよかったです(笑)。うちは夫婦それぞれで片渕監督のTwitterをフォローして毎日チェックしているうちにすっかりファンになってしまって。

 あと、第2弾のクラウドファンディングで資金が集まりすぎた時に、片渕監督が「これ以上は結構です」と言ったのにはすごく感激しましたね。クラウドファンディングでありながら、要らないお金まで集める気はないという。その後ファンの方から「集まり過ぎちゃったお金をこう使ったらどうですか」という提案にも、「用途が決まっているのでそれ以外には使えません」ってきっぱりおっしゃったのもすごいなと。浮足立つこともなく、原作もクラウドファンディングの出資者も大事にしつつ、作品をこうして世に出してくれたので、クラウドファンディング体験としてはすごく満足感があります。

藤村阿智:イラストレーター、ライター、同人作家。現在「旬刊経理情報」で文房具コラム連載中

山口 今度同じようなクラウドファンディングがあった場合、参加しますか。

藤村 内容を見て考えますね。片渕監督のファンだというだけで参加するわけでもないですし。もし次の作品も困っているという話が出れば参加するでしょうけど、でも次はたぶん困らないですよね(笑)。

いしたに まあ、そう思いますよね(笑)。

藤村 なのでいきなり乗っかることはないですけど、納得できる内容で、片渕監督もそれを希望されるなら参加してもいいかなと思います。

山口 例えば、今回カットされた原作のリンさん絡みのエピソードを入れて再制作するためにクラウドファンディングをあらためてやるとしたらどうです?

藤村 そこはクラウドファンディングで募集するものではないんじゃないかなと思いますね。ここの線を越えちゃいけないというのを分かっていそうな片渕監督が、それは駄目だ、というのをコントロールしてもらえたらいいんですけど。

いしたに 節度をもってやらないと、すぐばれますからね。

©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

山口 それは本当にそう思いますね。松島さんはクラウドファンディングの満足度はいかがですか。

松島 自分の出資が映画を作る助けになったのなら本当にうれしいですし、出来上がった映画にも不満はないんですが、クラウドファンディングで応援した人たちとしてエンドロールに載っているのが一部の人だけというのはすごく居心地が悪かったですね。もちろんクレジットされる出資コースとそうでないコースがあったのですが、映画の中身が、一人一人がそこにいる、という内容なのに、名前の出ている人がすべてではないという事実とは違うかたちで残ったように見えるので。せめて最後に「ほか」とついているだけでも違った気がします。

山口 なるほど。舞台挨拶ではいつも具体的な人数にまで言及されていますけど、エンドロールのクレジットでもそうなっていればもっとよかったんじゃないかと。

松島 はい。もし1000年後に誰かが見た時に「この人たちだけか」と思われるのは嫌だなと。そこは細かいところも書いてほしかったですね。

いしたに 確かに「他、何名の皆さま」とか、出資者の総数は入ってもよかったのかもしれない。

山口 今後、同じようなクラウドファンディングがあった場合はどうですか。

松島 これも藤村さんと同じで、今回はこの作品ということもあったし、監督もあの人かと想像できる方だったので出資したのであって、次も同じように個別の判断になるかなと思います。ただ、この映画に関わったという記憶はあっても、クラウドファンディングは面白いと言えるほどの印象はあまり残っていないですね。

松島智:ウェブデザイナー。電子書籍をウェブに埋め込んで公開できるフリーソフト「BiB/i」ほかで受賞も

山口 いしたにさんはどうですか。

いしたに 満足度でいうと、正直100倍界王拳ですよね(笑)。あんなポジション(編注:いしたに氏の名前は10人が横に並ぶエンドロールの先頭左上、非常に目立つ場所に配置されている)に出させていただいたら、そりゃ関係者と勘違いされるわな、みたいな。たぶんBlu-rayでもあのポジションは維持されるだろうし、観るたびに、いしたにという名前を人様にお見せしているのが、大変申し訳ないなあと思っています(笑)。

山口 (笑)。次にクラウドファンディングがあった場合は。

いしたに ポジション的に目立ってしまって、すごくプラスをいただいた負い目はあるので、もしまた次に同じ座組があれば付き合うと思います。

 僕はクラウドファンディングについては、いいところも悪いところも分かっているつもりで、出資する時もこの人は過去にどういうことをやったのか、これは技術的に無理では、という下調べは必ずしていますし、その姿勢はあまり変わらないですね。

 ただクラウドファンディングのあり方が、特に日本というマーケットでは変質してきていて、いわゆる集金装置になりがちなところでぎりぎり踏みとどまっている感じなので、この先どう変質していくかはしっかり見ていきたいですね。特に今回のは、金額的にも大きな成功例になってしまったので。

山口 僕も日本のクラウドファンディングには懐疑的なんですが、今回のクラウドファンディングは正しい目的で使われた稀有な例だと思っていて(笑)、かつ作品も素晴らしくて、不満があろうはずもない。そもそもエンドロールだけでなくパンフレットにまで名前が載っている時点ですでにサプライズでしたし、もうお腹いっぱいです(笑)。本当にありがとうございますと言いたいですね。

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